額面23万円、手取り18万円――。
東日本の大学病院に勤めていた30代の男性外科医は、毎月の給与明細を見るたび、ため息をついた。時給に換算すると500円の月もあった。
全国の病院勤務医の平均年収である約1500万円には、ほど遠かった。
収入を上げるには、大学病院からあっせんされる関連病院でのバイトをやらざるを得ない。
月の時間外労働は、大学病院で110時間、バイトで40時間の計150時間。年では計1800時間に達した。
数年前、意を決して医局の教授に訴えた。
「夜中に呼び出されて緊急手術をするより、ファストフード店でバイトする方が給料が高いです」
「すぐに働き方改革を進めて、労働時間を減らしてください」
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バイトが主な収入源
10年以上前に入局した当初から、「タダ働き」は当たり前だった。
午前7時から入院患者を回診し、朝礼にも出席するよう指示されたが、午前9時より早い時間については時間外手当が認められなかった。
終業後も、夜のカンファレンス(会議)、術後の患者の管理、研修医の指導などは申請の対象外とされた。
一方、関連病院で週1回の外来、月1回の週末の当直に入れば、バイト代は月60万円にのぼり、割がよかった。
なにより、大学病院でしかできない最先端の手術で患者を助けることに生きがいを感じ、不満は腹におさめた。
だが、2024年から「医師の働き方改革」が始まることを知り、考えは変わった。
時間外の規制、収入激減も
時間外労働に上限が設けられ、原則として年960時間(月80時間相当)、特例を申請すれば1860時間(月155時間相当)となることが決まった。
960時間なら、大学病院の時間外労働だけで上限を超え、バイトができなくなり収入の7割を失う。1860時間なら、今後も過労死ラインの2倍近い長時間労働が際限なく続く。
妻が妊娠したことも大きかった。
医局で初の育休を取るために制度を調べ、育休期間中に給付される収入は、大学病院からの給与がベースとなることを知った。バイトもできなくなり、収入は激減する。労働への対価が正当に支払われないことへの不満が募った。
教授には、すぐに給与体系を変えることは難しくても、せめて医局内で業務効率化を進めるべきだと伝えた。
「働き方に配慮した職場にしないと、今の若い医師は入局してくれません」
「入局者が増えなければ、一人一人の労働時間が短くなることはありません」
相づちを打っていた教授から返ってきた言葉に、耳を疑った。
「僕たちが若いころは、雑務…