日本の防衛力強化の動きが続いています。「憲法9条の改正について議論すべきだ」という主張も増えています。豊富な軍事知識に裏打ちされた憲法論で知られる水島朝穂・元早稲田大学教授は、憲法9条が生まれた原点を忘れず、安全保障についての緻密(ちみつ)な議論が必要だと指摘します。
――戦後80年近く、日本では憲法が改正されませんでした。
憲法施行後わずか3年で朝鮮戦争が始まり、マッカーサーは日本に再軍備を求めました。当時の軍事顧問団幕僚長フランク・コワルスキーは、憲法9条や18条(徴兵制不可)、76条2項(軍法会議不可)の存在を理由に、本格的な軍隊の設置は困難と判断しました。
結局、「警察力を超えない実力は合憲」という形で「警察予備隊」が発足しました。1954年に、「自衛のための必要最小限度の実力は合憲」という解釈で3自衛隊となりましたが、この70年間、一度も憲法は改正されず、「専守防衛」の自衛隊という建前が維持されてきました。
戦後日本の政策決定や行動は、憲法の徹底した平和主義が「心柱」となって、軍事に抑制的であり続けています。80年代くらいまで、政治家にも自衛隊幹部にも戦争の経験者が多かったことも影響しています。
■9条の意味、軍事的合理性の…