
世界最先端の半導体を開発する「ラピダス」が4月、試作を始める。2027年に完成品を売り出すのが目標だ。
一体どういうものなのか。北海道大学総長補佐の葛西誠也教授が詳しい。
半導体は、電気が流れる製品にほぼ入っている。基板(チップ)に「トランジスタ」と呼ばれる部品をいくつも並べた回路をつくり、計算やデータ保存などをできるようにする。トランジスタの数が多いほど性能は高くなる。
ソニーの初代ゲーム機「プレイステーション(PS)」はトランジスタが100万個入っていた。30年後の最新PS5では100億個に達し、映画さながらの臨場感で楽しめるようになった。半導体は現実と見まがう仮想世界を作る。「現代の魔法」と葛西教授は言う。
半導体の進化なくしてスマホやAIの進化はない。ラピダスはPS5に入るトランジスタ数の約4倍をわずか1センチ四方のチップに載せることをめざす。
当然、作るのは難しい。販売にこぎつけるには、安定して大量生産できるまでに製造技術を高め、コストも下げて買い手をつかまなければならない。
電機業界を初めて取材した2002年以降、製造技術を確立できず商品化を断念せざるをえなかった例を見てきた。
その間に、テレビやデジタルカメラなどで世界をリードしていた日本勢は、薄型テレビやスマホで海外勢に取って代わられた。半導体も、日本企業に残る製造技術は15年前の水準だ。「世界のトップにもう一度戻す」(ラピダス幹部)という目標が、私にはとてつもなく高く見える。
それだけに、成功すれば価値は高い。巨費を投じ、技術立国の復権をかけた挑戦がいよいよ始まる。