14年前のあの日の朝、道路にはまだ雪が残っていた。高校1年だった岩手県北上市の佐藤諒さん(30)は、父に甘えて自宅から約2キロ先の学校まで車で送ってもらった。

 「行ってきます」

 「おう、行ってらっしゃい」

 車を降りる時の何げない会話。それが最後になるとは、想像すらできなかった。

 午後2時46分。学校の授業中、突然大きな揺れに襲われた。急いで机の下に潜り込み、揺れが収まると外に避難した。校舎は一部が壊れたが、生徒たちは無事だった。市内の最大震度は5強。内陸部にあるため津波の心配はなかった。

 携帯を開くと両親からメールが届いていた。父も母も無事。だが、父からはこうあった。

 「父ちゃんは今、沿岸を走っている。津波にのまれるかもしれない(笑)」

 なぜ沿岸部に――。その後、連絡は途絶えた。

写真・図版
子どもの頃の佐藤諒さん(右)と父の正行さん=2000年ごろ、岩手県北上市の自宅で、佐藤諒さん提供

憔悴する母、ずっと手を握った

 夜になっても自宅に戻ってこ…

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