
身をかがめながら進んだ先には、薄暗く、窮屈な屋根裏のような空間が広がっていた。
東京電力福島第一原発5号機の原子炉直下に1月、朝日新聞の記者が入った。溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の試験採取が計画されている2号機と同型で、寸法は同じという。
燃料デブリは1~3号機に推計880トンあるとされる。取り出しは「廃炉の最難関」とされ、国や東電は折りたたみ式のロボットアームでの試験的取り出しを2号機で2021年から始める予定だった。ところが、動作の精度が足りず、昨年11月の事故後初めての試験採取には、間に合わなかった。使われたのは過去に実績のある簡易な装置だった。
- 「廃炉の最難関」福島第一原発の燃料デブリ取り出し 三つのポイント
ロボットアームは18年秋に開発が始まり、すでに6年が過ぎた。三菱重工業と英国の原子力関連企業が共同で行い、関連事業も含めて、78億円の国費が投じられた。
支援機構理事長も「複雑な心境」
全長約22メートル、重さ約4.6トンで、18の関節がある。アームが作業するのは原子炉直下の空間だ。高さ約1.5メートルのスペースで、長さ約4メートルの先端部の向きを少しずつ変え、燃料デブリがある格納容器底部に先端部を下ろす。
さらに、高さ約40センチのアームに対して、格納容器の入り口にあたる貫通口も内径約55センチと狭い。こうしたルートをすべて遠隔操作で通っていかねばならない。東電の広報担当者は「関節の角度調整が難しい。ひとつ間違えば、まわりの設備にぶつかってしまう」と説明する。
英国の核融合炉の保守点検装置を参考にした設計だが、根元側で重さを支える構造のため、伸ばしたアームがたわみ、動きが不安定になりやすいと指摘されている。
廃炉作業の助言をする「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」(NDF)の山名元理事長は「難しい条件で難しいことをやろうとして、相当苦労している。これをダメと言うか、頑張れと言うかは非常に微妙だが、頑張っていると言いたい。複雑な心境だ」と明かす。
試験が長引くなかで、新たな問題も出てきた。
難航するロボットアームの開発など、東京電力福島第一原発の廃炉作業には、政府や東電など多くの関係者が複雑に関わっています。専門家は、いまの体制は責任の所在が見えにくく、原発事故当事者である東電の無責任な姿勢を助長しやすいと指摘します。記事後半では各組織の関係、住民参加の取り組みを紹介します。
昨年8月以降、モーターケー…