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山名保幸さんの作品「奥播磨かかしの里」
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 この春に開催予定の「弟子」たちの作品展を心待ちにしていた「師」が、昨夏に急逝してしまった。残された弟子たちは自分たちだけで制作を続け、開催にこぎ着けた。

 水彩画教室を主宰していた山名保幸さん(享年73)=兵庫県姫路市東今宿5丁目=の本業は農家だった。農作業の傍ら油絵や陶芸、針金細工など多趣味をたしなんできたが、20年ほど前から水彩画だけに没入した。一時期、冬の農閑期に絵を習いに通ったことはあったが、おおむね独学だったという。

 「にじみ」「ぼかし」を大切にするのが山名さんの作品の特徴。最初に紙全体に「水」を塗り、その上から乾き具合を見ながら色を付けていく。水が残っているところは味わい深くにじみ、乾いているところはくっきりとした描写になる。

 季節感や自然の残る風景を大切に描いた。「百姓として土に生きてきたから」と妻の満子さん(72)は振り返る。

 独特の作風を築いた山名さんは2016年に初の個展を開催。会場で絵に魅せられた綾部顕さん(84)はその場で「ぜひ教室を開いてください」と山名さんに頼んだが、そのときは「弟子は取らん」と断られたという。

 しかし、家族からも「教室を開いたら?」と勧められた山名さんは考えを変え、18年2~3月に開いた2回目の個展会場で生徒募集のチラシを掲示した。それを見た綾部さんら山名さんの作品のファンがすぐに10人ほど集まり、直後の4月に教室がスタートした。

 自宅近くの市民センターを会場にした月2回の教室で、山名さんは自らの表現法を生徒たちに伝えた。

 「水彩画は水が描いてくれる」

 山名さんの口癖だった。農家らしく、その日の題材に採れたての野菜を持参してくることもあった。教室後に野菜をもらって帰るのが生徒たちの楽しみだったという。

 近年、ひざを悪くしていた山名さんだが、それ以外は特に体調の不安はなかった。昨年3月に個展を開いた後、「次は生徒の作品展だ」と1年後の会場を押さえ、「みんな力をつけてきた」と楽しみにしていた。

 7月6日には自身の新作を仕上げた。田植えが終わって時間が取れた日に、市内の「奥播磨かかしの里」を夫婦と孫2人で訪れたときの、穏やかな日常の瞬間を切り取ったものだ。

 その2日後の8日朝、目覚めた直後に突然に倒れた。脳内出血だった。日にちが10日に変わってまもなく亡くなった。

 残された生徒たちは「私たちは山名さんの絵が好き」との強い思いで、その後も師のいない教室に通い続けた。予定通りに3月に作品展を開くことが、みんなの目標になっていた。

 師からアドバイスをもらえなくなった代わりに、師ならきっとこう言うのでは、とお互いの作品を批評し合った。制作につまずいてもみんなで励まし合い、展に出す作品を仕上げていった。

 作品展には生徒11人が3点ずつ出品する。山名さんの「奥播磨かかしの里」の絵を含む遺作22点も展示される。

 この展示が終わった後、教室の活動をどうするかは未定だが、生徒たちのリーダー役の水谷伸雄さん(80)は「これからも山名さんに教わった絵を描いていきたい」と話している。

 「山名水彩画教室作品展」は、4~9日に姫路市本町のイーグレひめじ市民ギャラリーで開かれる。

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