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コンクリート護岸に囲まれた小さな川の所々に、流れを遮るように石が積まれている。その上流側には土砂がたまり、草が茂っていた。
滋賀県彦根市を流れる四の井川。滋賀県立大環境科学部の瀧健太郎教授(52)とともに訪れると、川の様子を見た学生たちから「わあー」と感嘆の声が上がった。
石を積んでから数カ月を経ても形を保ち、期待した通りの変化が現れていたからだ。
「小さな自然再生」
この石積みは「小さな自然再生」と呼ばれる取り組みの一つだ。単調な川の流れに変化をもたらし、多様な生き物のすみかをつくり出す。ほかにも、川底を掘り返したり、手づくりの魚道を設けたり。人の手で工夫を重ね、作業自体を楽しめる。
瀧さんは、その普及に携わってきた。今では環境科学部の必修科目に組み込み、1年生の誰もが川で体験をする。昨年は、学生がイラストで解説を手がけた冊子「はじめての魚の居場所づくり」を発刊、行事や研修会を通じて地域の団体や行政に広く浸透をはかる。
「ちょっとした知恵と工夫で生き物が戻ってくる。工事の仕上げでも取り組むようになるといい」
土木工学を専攻し、滋賀県の技術職員を18年間務めた。全国に先駆けた流域治水条例づくりに携わり、詳細な浸水リスクの地図の作製を手がけた。リスクの高い場所の建築に歯止めをかけ、森林や農地の保水機能を守るなど、川の外の対策も組み合わせて被害を減らす考え方だが、当初は議員や住民の反発も強かった。
「『地価が下がる』『あふれないようにするのが県の仕事だろう』と怒られた」。ただ、施設整備による対策には限界があり、地図は安全なまちづくりを考える土台になる。かさ上げで対応できる場所や、浸水とほぼ無縁な場所もわかる。根拠を示して説明を重ね、東日本大震災を経てリスクは伝えるべきだとの考え方も浸透、次第に受け入れられていった。
地域に愛される川こそ「いい川」
大学教員への転身は2014年の条例制定から3年後。「流域にかかわり続け、命を吹き込みたい。学生に経験や考えを伝えることで未来が変わっていけば」と思ったからだ。
行政での経験は今に生きてい…