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庄司潤一郎氏

 米ロがウクライナの頭越しに停戦交渉を始めることで合意したことを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領は2月15日、ミュンヘン安全保障会議で「欧州軍を創設すべきだ」と訴えました。トランプ米政権が目指す和平は実現するのでしょうか。戦間期の歴史に詳しい防衛研究所の庄司潤一郎研究顧問は「トランプ政権が真の『平和』を望んでいるかどうかは議論が分かれるでしょう」と語ります。和平の実現には、欧州各国の国益が一致するかどうかが重要な要素になると指摘します。

 ――ミュンヘンでは1938年、チェンバレン英首相らが、ナチスドイツに旧チェコスロバキア・ズデーテン地方の割譲を決めた会談も開かれました。

 チェンバレン首相の宥和(ゆうわ)政策の背景には平和への強い願望があり、権力欲や実利とは無関係でした。チャーチル英首相が後に「悪意はなくても無実ではない」と語ったように、第2次世界大戦を招いたことは事実で、ヒトラーの真意を見誤っていました。

 ただ、第1次世界大戦から約20年の時期で、「凄惨(せいさん)な戦いを繰り返したくない」という信念は理解できる一面もあります。

 第1次世界大戦の苦い過去を体験したチェンバレン首相の思惑は、トランプ大統領とはやや異なっている面があるのではないかと思います。

 ――ゼレンスキー大統領は欧州軍の創設を訴えています。

 停戦しても、再び侵略されるかもしれないという危機意識は理解できます。北大西洋条約機構(NATO)加盟や安保条約の締結も必要ですが、有事の際に武力行使が発動するかどうかが重要です。例えば、第2次世界大戦が勃発した1939年当時のポーランドは、英国とフランスとの間にそれぞれ相互援助条約を結んでいましたが、ドイツとソ連に侵略されても、ドイツに対する宣戦布告だけで武力行使は全く発動されませんでした。その結果、ポーランドは独ソ両国によって分割されました。

 自国の兵士を他国の防衛のために派遣すること自体ハードルが高いうえに、同盟が結ばれた時期と有事の時には時間差があり、国際環境も国益も変わるからです。ウクライナが再び侵略された時、参戦することが自国、欧州、ひいては国際社会の利益になるという状態を維持することが必要です。

 ――欧州の一部からは今後の…

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