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俳句時評 岸本尚毅
朝刊歌壇俳壇面で月1回掲載している、俳人・岸本尚毅さんの「俳句時評」。今回は生誕150年の昨年刊行された高浜虚子の評伝から、俳人にとどまらない人間・虚子の多彩な顔に光を当てます。
虚子生誕一五〇年をしめくくる昨年十二月、坪内稔典著『高浜虚子』(ミネルヴァ書房)が刊行された。この評伝は、正岡子規との関係、雑誌「ホトトギス」の経営、小説・写生文の執筆、文芸の編集者や俳句の選者としての活動など、虚子の多様な面に言及する。
代表句も簡潔に紹介する。たとえば、「日」の移ろいを捉えた〈遠山に日の当(あた)りたる枯野(かれの)かな〉と〈桐一葉日当りながら落ちにけり〉は「時間的俳句」。〈流れ行く大根の葉の早さかな〉は「二つの『の』によって流動感を生じる」。「虚子一代の傑作」だとする〈爛々(らんらん)と昼の星見え菌(きのこ)生え〉は「『見え』『生え』という二つの動詞の連用形が勢いを伝える」などと作品の言葉に即して分析する。
〈昼寝する我と逆さに蠅叩(…