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「森の風こども園」の園庭から続く森の中で、思い思いに遊ぶ子どもたち=2025年1月23日午前10時55分、菰野町、鈴木裕撮影
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 森や原っぱを駆け回って遊んだり「仕事」をしたりしながら、ちょっとだけ限界を超える挑戦をして自分のセーフティーゾーンを広げていく。子どもたちが成長していく様子を、保育所型認定こども園「森の風こども園」(三重県菰野町)の嘉成(かなり)頼子園長(72)は、こう話す。子どもたちが生き生きと毎日を過ごしている森の風フィールドを訪ねてみた。

 園庭から続く杉林に、園児たちの走る足音と明るい歓声が響く。やわらかい陽光が差し込む地面にしゃがみ、朽ちた倒木を棒で削ってみたり、保育士と一緒に切り株を落ち葉で飾ってみたり。「寒くても、雪が降っても、みんな森や原っぱに飛び出していく」と嘉成さん。

 木登りができる広葉樹の枝の上にある鳥の巣みたいな〝基地〟は、園を卒業した小学生たちが製作中のものだ。森を冒険している年長さんが、草むらを棒でかき分けて年中さんが通れる道を作ることもある。

 森の風フィールドは、園がある同町千草地区のあちこちに広がっている。「へんてこ森公園」「原っぱ森川猫じゃらし」「おじさんたちのひみつきち」や田んぼ、畑…。「『貸してあげる』『使って』と、地元の人たちが森や農地を提供してくれるし、一緒に作業もしてくれる。地域に支えられている」という。

 フィールドは、遊ぶためだけの場所ではない。田んぼや畑では、子どもたちが農作業で手や体を動かす。飼っているニワトリの世話もする。まき割りやみそ汁作りもやってみる。

 「子どもに生命の大切さをどう伝えればいいのか。それを考えた時に、命があふれた場所に子どもたちを委ねて、生活に結び付いた体験をすることの大切さに気づいた」。嘉成さんは、こう話す。

 「自然は子どもたちの興味や関心を引き出してくれるし、自分の力だけではどうしようもないことがあると気づかせてくれる。水は上から下へしか流れないし、大きな岩から飛び降りれば危ない、と。でも、子どもたちは自分の限界をほんのちょっと超えたところに挑戦する。挑戦しながら自分のセーフティーゾーンを作っている。小さな危険が、子どもたちを大きくして、大きな危険からも守っていく」

 自分自身で成し遂げた経験は、自信にもつながる。「『自分って、なかなかいいぞ』と考えるようになっていくと、周りの子どもの良いところに気づくようになる。お互いに認め合うことで仲間や友だちができる。社会の原点のような保育現場づくりに取り組んできた」と語る。

 便利な暮らしとは逆向きに、足を運び、手を使い、ともに汗を流して暮らしを作り上げる森の風フィールドで、どんな子どもを育てようと考えているのか。

 嘉成さんはいう。「AI(人工知能)が出てきて、人間はだんだんと動物ではなくなってきているという危機感がある。だからこそ、動物としての人間、人間らしい人間を育てていきたい」

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 〈森の風こども園〉 2007年に認可外保育施設「森の風ようちえん」として、菰野町千草に嘉成さんが創設。21年4月から保育所型認定こども園に。0~5歳の子どもが保育部と幼稚園部で生活する。

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