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「憲法季評」安藤馨・一橋大学教授(法哲学)
昨年末に韓国で生じたクーデター事件とその失敗は強い印象を残した。行政権を掌握する大統領が自身の政治的行き詰まりを打破するために、自身に対抗する議会を軍事力で制圧しようとした自己クーデターであるが、韓国政治の専門家が指摘するように、左右両派の「法の支配」と民主政への軽視をそこには見て取ることができる。
右派についてはいうまでもないが、左派についても事情は変わらない。最大野党代表は、事件以前から選挙法違反で訴追を受けており、有罪判決確定による公民権喪失を恐れ、判決確定前に大統領に就任して有罪判決を免れることを目指してきたと指摘される。事件後も、司法手続きを潜脱するための早期の権力奪取こそを性急に追求していることを有権者に見透かされ、与党支持率が野党支持率を上回った。
こうした風潮は、韓国政治に特有のものというわけではない。米国では、第1次トランプ政権末期に自己クーデターに類した性格を有する議会議事堂襲撃事件がトランプ支持者によって発生し、当のトランプ大統領が政権の再奪取によって議事堂襲撃事件についての自己の責任追及をかわしつつ、襲撃事件で訴追された支持者たちの大量恩赦を実施している。あたかも一人で韓国の左右両派の問題を体現しているかのごとくである。他方で、トランプ大統領による第2次政権早々の大統領令の乱発が、議会での議論を迂回(うかい)するためのものであり議会軽視であると非難されているが、この議会軽視と大統領令の乱発は、オバマ政権によって確立されたものであると指摘されている。左右でお互いに前政権の政策を覆すために大統領令が濫用(らんよう)されている、という側面も無視できない。社会の党派的分断に駆動された、手続きの軽視と潜脱が法の支配と民主政を毀損(きそん)している点で両国の状況は似通っている。
日本の政治状況においても…