ノーベル文学賞を受賞した韓国の作家ハン・ガン(韓江)さん(54)は、韓国現代史に刻まれた暴力や虐殺を描いた作品で知られる。各地で争いがやまず、多くの命が失われている世界をどう見ているのか。文学や言葉は力を持ちうるのか。「希望と文学には共有する点がある」と語る作家の思いを、受賞記念講演や朝日新聞のインタビューからたどる。
- 暴力に満ちた世界で、希望を想像する 問い続ける作家ハン・ガンさん
- 愛読書、作家の父、そして次回作 ハン・ガンさんが記者に語った思い
「文学はいつも、私たちにとって余分なものではなく、どうしても必要なものだ」(ノーベル賞授賞式に先立つ記者会見で)
ハンさんの国際的な知名度を最初に高めたのは、2016年の「菜食主義者」の国際ブッカー賞受賞だった。英国で最も権威ある文学賞の翻訳部門。肉食を拒んでやせ細っていく女性を通して、韓国社会における抑圧を浮かび上がらせた。
戒厳令下で民主化を求める市民や学生が軍に武力弾圧された光州事件を取り上げた「少年が来る」、多数の住民が虐殺された済州島4・3事件を題材にした「別れを告げない」も評価が高い。歴史的なできごとを扱うときもそうでない場合も、ハンさんが一貫して描いてきたのは、人間の暴力性と他者への愛という二面性だ。
ハン・ガンさん
韓国南西部の光州市で1970年に生まれた。「蒙古斑」で2005年、韓国の「李箱(イサン)文学賞」(日本の芥川賞に例えられる賞)を受賞。この作品を含む三つの小説で構成する「菜食主義者」に16年、英国の国際ブッカー賞が贈られた。「ギリシャ語の時間」「回復する人間」「少年が来る」「すべての、白いものたちの」「別れを告げない」などの作品が邦訳され、日本の読者にも親しまれている。
「どれだけ愛せるのか? どこまでが限界なのか?」
ノーベル賞の受賞記念講演(12月7日)のタイトルは「光と糸」。8歳の頃から現在まで、その時々の気持ちをまじえて自らの文学的な軌跡を振り返った。
(以下《》は講演から)
1970年に光州市で生まれ、9歳のときにソウルへ。まもなく光州事件が起きる。《光州について書こうと考えたことはただの一度もなかった》が、内面の変化を経て、「少年が来る」(14年)を完成させた。
《人間の残酷さと尊厳が極限…