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「権威や権力をわらい飛ばす。そこには批評性がある。戦中の桐生悠々の『関東防空大演習を嗤(わら)う』とか、好きですね」=小林正明撮影

 ぶった斬れ、腐った政治を――公開中の映画「室町無頼」の脚本・監督を務めた入江悠さんに尋ねた。昨年12月、お隣の韓国で大統領の「非常戒厳」に市民が見せた敢然たる抵抗には、自国の暗部を描いた映画の影響が指摘されますが、翻って日本映画は現実政治や社会問題から逃げていませんか?

ハッピーに「偏る」日本のメジャー映画

 ――韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の「非常戒厳」に対し、市民は敢然と抵抗しました。1980年に起きた光州事件を扱った「タクシー運転手」、後の全斗煥(チョンドゥファン)大統領らによるクーデターを描いた「ソウルの春」といった映画の影響も指摘されています。

 「韓国やアメリカは、実際に起きた政治的事件をちゅうちょなく映画に仕立てます。若い世代が映画から現代史を学んでいるという面はあるでしょうね」

 ――翻って日本映画は、現実政治や社会との回路が切れてしまっていませんか?

 「海外の映画祭に行くと、『日本のメジャー作品は、どうしてこんなに偏ってるんだ?』とよく指摘されます」

 ――「偏ってる」とは?

 「現実社会に対する批判がないというか、社会問題を描く作品が少ないという意味です。いや、小規模な映画館で上映されるような、低予算の作品にはそういうテーマのものが多くあるんです。なのに、大手の映画会社が手がけるメジャー作品になると、ほとんど見当たらない。それはなぜなんだ?と」

 ――なぜでしょう?

 「端的に言えば、批判された…

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