2024年の入選句から、4人の選者が1句ずつ選びました。受賞者には、賞状と記念品が贈られます。
高山れおな 選
野遊(のあそび)のことろことろや日のとろろ
(高松市)渡部 全子(わたなべ・ぜんこ)
〈作者の言葉〉暖かな春の野に、子どもたちが楽しく遊んでいます。こんな平和に、ふと鬼の気配がないかと不安がよぎります。「ことろことろどのこをことろ」。でもそんな不安も穏やかな日差しにたわいなく消えてゆくのです。
〈評〉春日遅々の気分をかきたてるリフレイン。甘く、気怠(けだる)く、ちょっと不吉で。
小林貴子 選
鴨鍋(かもなべ)や仕留める迄(まで)を聞かさるる
(千葉市)桐畑 佳永(よしなが)
〈作者の言葉〉鴨肉とネギの鍋が煮立っており、よい匂いがしている。客が次々と鴨を仕留めるまでを質問するので、招待者はつい長々と話をしている。こちらは涎(よだれ)が長々と垂れ困っている。そんな滑稽なシーンを思い出して作った。
〈評〉鴨を仕留めるまでの話はなまなましい。食べること、生きることを思う。
長谷川櫂 選
腸(はらわた)を晒(さら)すアメリカ秋黴雨(あきついり)
(東京都足立区)三角 逸郎(みすみ・いつろう)
〈作者の言葉〉自分第一の考えが世界を席巻しています。世の中はどうなっていくのでしょうか? 剝(む)きだしの本音が世界を破滅させないことを切に願います。四人の孫たちの人生が平和の光に照らされますように。祈りの一句です。
〈評〉時事問題は新聞俳壇の大事な題材。昨年最大の珍事を鋭く詩的に描く。
大串章 選
極楽も地獄も忘れ日向(ひなた)ぼこ
(長崎市)下道(しもみち) 信雄
〈作者の言葉〉ふり返れば、私の一生は極楽と地獄の間をうろうろしていただけのように思う。最近、極楽も地獄も霞(かす)んで遠くになった。そのせいか、何処(いずこ)かが軽くなったような気がする。その心境が、この句を生んだのかとも思う。
〈評〉無念無想の日向ぼこ、無我の境地にひたる。喧噪(けんそう)を離れた至福のいっとき。