1・17のような「真冬」の大災害が北海道などの寒冷地で起きれば、被害は夏よりも確実に拡大する。私たちが知っておくべき知識と備えを考える。
- 17歳で被災した少女 30年で学んだ1人でも多くの命を助ける方法
記者が見た能登半島地震 冷える避難所
能登半島地震の発生から1週間ほど、北海道からの応援取材で現地に入った。石川県珠洲市では、崩れた民家や歩道には雪が積もっていた。積雪で道路の陥没した部分が見えない危険から、金沢市からレンタカーで向かうのを断念する日もあった。
気象庁のデータによると、珠洲市の昨年1月の平均気温は3.9度。最低気温は零下3.8度。積雪は合計で49センチ。
珠洲市の避難所の小学校には、約300人が身を寄せていた。被災者は教室の床にふとんを敷いて生活する。避難所の責任者の男性(70)によると、各部屋にはストーブがあり扉で区切られているため、寒さはそこまでではないそうだ。
ただ、全ての避難所で十分に暖をとれるわけではない。約50人が避難した別の学校の体育館では、七つのストーブで広い空間を暖めていた。避難者は床に1枚の段ボールを敷き、数枚の毛布を重ねて生活していた。取材の際、体育館の床は冷たく、足が痛くなった。
北海道に戻り、寒冷地防災に詳しい専門家に取材をした。日本赤十字北海道看護大の根本昌宏教授は、厳冬期の被災について低体温症の注意を促す。低体温症とは、寒さで体の中心部の体温が35度以下になる状態。ぶるぶると震え始め、中等症以上になると、意識が遠のき、重症になると心臓が止まる恐れもあるという。「夏ですら低体温症になる。冬の道内では危険性はより高まる」と指摘する。
発災直後から現地に入り調査をした根本教授が注意するのはトイレだ。暖められた屋内と屋外トイレの寒暖差が大きく、「室内が20~25度で、外気温は2~3度。ヒートショックが起きてもおかしくない状況」と話す。断水するなかで、多くの避難所では屋外のトイレを使用していた。
北海道の冬季の被災はより厳しさを増す。昨年1月の札幌(石狩地方)の平均気温は零下1.8度。最低気温は零下10.6度で、積雪の合計は161センチだ。
昨年12月、道東の根室市や別海町などで開催された道総合防災訓練を取材した。寒さ対策として、段ボールベッドの組み立てや二酸化炭素の濃度を測りながら効率的な換気をするための訓練などが行われた。
二つのストーブがある教室で一夜を明かした女性(45)は「寒くて寝袋は二つ必要だと思いました」と話した。仮設テントの中に段ボールベッドを置き、上に毛布を敷いて寝た。体は暖かかったが顔は寒かったという。「今回はイベントだから安心感があったけど、被災したらどうなるのか。最低限、自分や家族を守るものを準備しなくちゃいけない」と話した。
女性の感想は、能登半島を取材した私の思いと同じだった。訓練では、避難所に市や道の職員がいて水も使える。実際の災害時には、市や道の職員も被災者である上に、災害対応に忙殺されているため、住民が主体となるなど避難所運営では大きな格差が生まれやすいと感じた。水や暖房も、蛇口をひねり、スイッチを押すだけでは手に入らない。
だからこそ、訓練で想定する重要性を感じる。ペットをつれて訓練に参加した女性(43)は「訓練で経験してみないと想像することも難しい」と語っていた。冬が来る度に改めて思い出し、準備をしたい。
増える関連死 積雪で建物倒壊も
阪神・淡路大震災のような大地震が、北海道内で起きる可能性はあるのか。
道内でも平成以降、大地震は頻発している。1993年の北海道南西沖地震では奥尻島青苗地区が大津波で甚大な被害を受けた。2018年の胆振東部地震では厚真町で道内初の震度7を観測。日本初の全域停電(ブラックアウト)も起きた。
現在、最も発生確率が高い地震が、千島海溝南部を震源とする地震だ。今後30年間で東日本大震災級の大地震が起きる確率は7~40%で「計算方法によっては南海トラフ地震よりも高い」とされており、いつ起きてもおかしくない状況といえる。
大地震が冬に起きると、道内の被害は阪神・淡路よりも大きくなりかねない。千島海溝地震では津波による死者が被害最大ケースで10万人超と想定される。いかに早く津波から逃げるかが生死の分かれ目だが、冬場は路面凍結で避難が遅れたり、建物の耐震性能が雪の重みで低下したりするなどのリスクが夏より高まる、とされる。
無事、津波から逃げられた場合でも、冬は低体温症や凍死などのリスクが残る。
2024年の能登半島地震は1月のお正月に起きた。直接の死者は241人で多くは家屋倒壊による圧死だったが、低体温症や凍死による死者も一定数いた。寒い冬は、避難生活の環境悪化などに伴う関連死の増加にも影響を及ぼしている。
大地震が起きるたびに建物の耐震性は強化されてきた。1981年の耐震基準は阪神・淡路を機に、2000年以降は基準がさらに強化された。道内の住宅の耐震化率は80%台で全国的にも高い。ただ、耐震基準は屋内にいる人間が下敷きになることを防ぐのが目的で、建物自体が壊れないことを保証するものではない。
北海道大学地震火山研究観測センターの高橋浩晃教授は「地域での建物が倒壊する割合は、地震後の人口減少の速度を左右する。人口減を招かないためにも一層の耐震化の備えは大切だ」と指摘する。
高橋氏は、千島海溝地震では「孤立の連鎖が起きるリスクがある」と警告する。能登半島地震では土砂崩れなどで道路が使えず多くの孤立集落が生まれた。同様に、道内でも津波で太平洋側の港湾が使えなくなり、斜面崩落などで広域輸送や生活のための道路網が寸断されたりするリスクがある。その結果、流通危機で直接被害のない内陸部も「間接被害」に見舞われるという。
市町村の大地震への対応では「広域避難(二次避難)の備えが足りない」とも指摘する。大地震で域内の人口の大半が被災すれば、域外に避難せざるを得ない。あらかじめ遠方を含む複数の自治体と災害時の連携協定を結んでおく取り組みは重要で、最近は徐々に広がりつつあるが「まだ少ない」と話す。
火山への警戒も 減る噴火経験者
地震と密接に関連する災害が、火山の噴火だ。100以上の火山がある日本は「火山列島」と呼ばれる。地震や火山活動が活発なのは、列島とその周辺がプレートの境界上にあるためだ。
北海道には、気象庁が24時間体制で監視する「常時観測火山」が九つある。有珠山、十勝岳、北海道駒ケ岳、樽前山、倶多楽、恵山、アトサヌプリ、雌阿寒岳、大雪山だ。いずれも最近の活動は低調で、噴火は15年以上起きていない。避難経験者が減るなかで、記憶の伝承が課題となっている。
とくに近年、20~30年おきに噴火している有珠山は前回の噴火から約25年が経過。噴火すれば、近隣の伊達市や壮瞥町、洞爺湖町、豊浦町の1市3町の住民の多くが避難生活を強いられる。その手配にあたる市や町の職員のなかにも噴火の未経験者が増えており、防災訓練などで意識の向上を図っている。