写真・図版
5歳ごろの袖裂香織さん(右)と美優さん。美優さんは普段、ソファベッドで寝ていた=遺族提供

 神戸市東灘区の袖裂(そでさき)眞奈美さんが初めて出産した女の子は、生後すぐ、先天性の筋ジストロフィーと診断された。徐々に筋力が衰える病気で、知的障害も伴っていた。「寿命は『10歳』がヤマ」と医師に言われた。

 受け入れられない眞奈美さんに、夫の伸彦さんは言った。

 「一日一日を大事に育てて、楽しい人生を送らせたらいい」

 3年後に生まれた妹も、同じ病気だった。

 おとなしい姉の香織さんと、おちゃらけた性格の妹の美優さん。テレビのチャンネルは香織さんが妹にゆずってあげた。お風呂では、伸彦さんがシャンプーで姉妹の髪形を変えて長時間遊んだ。ディズニーランドや姫路城……。車椅子の姉妹とどこにでも出掛けた。

 その夜もいつも通り。築約50年の木造2階建ての1階の和室で、9歳と6歳になった姉妹は、眞奈美さんを挟んで川の字で眠った。伸彦さんも1階の別の和室で横になった。

 午前5時46分。家がガタガタと大きく揺れ出した。

 眞奈美さんは、高さ約1メートルのたんすのそばにいた妹に、とっさに覆いかぶさった。たんすは直撃しなかったが、天井が落ちてきた。

 香織さんの泣き声がした。「お母さんがそばにいるから大丈夫だよ」。手を握ると泣きやんだ。香織さんのおなかの上に20センチ角ほどの天井のはりが横たわっていた。

 地震の2時間後。近所の人が母子を救出。3人は近くの小学校に避難した。

 小学校の保健室の前。姉妹は毛布にくるまって横になり、大好きな父の救出を待った。午後2時ごろ。避難所で出会った人らと眞奈美さんで伸彦さんを倒壊家屋から出した。

 「もうすぐお父さんが来るよ」。先に学校に着いた眞奈美さんが声をかけると、香織さんはにこっとして「とうしゃん」とつぶやいた。

 姉妹の隣に、伸彦さんを寝か…

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