写真・図版
医師の鎌田實さん

 中年期に陥る心理的危機「ミッドライフ・クライシス」。自ら経験し、著書もある医師の鎌田實さん(76)にその症状や対処法について伺った。

 ――ミッドライフ・クライシスとは?

 発達心理学者エリク・エリクソンの提唱した「ライフサイクル・モデル」では、乳児期から65歳以上の老年期までを8段階に分けて40歳から65歳を成年後期としました。

 人生の上り坂から下り坂に入るこの時期に、心や体の変化が表れ、葛藤や不安、焦り、うつなどの心の不調を抱えやすくなります。40代~60代で8割が経験するとも言われています。「第二の思春期」と言われることもあります。

 うつ病と診断されると、心のダメージを脱出できるだろうか、また回復しても再びくるのではと思ってしまいますが。僕自身は48歳で症状が出て、完全に抜け出すのに4年かかりました。とても苦しんだのは2年間ですね。

 ――何か特別な原因があるのですか?

 苦境にある人ばかりではなく、順風満帆で大きな問題がない人にも起こりえます。調べてみると、著名な作家のトルストイや、ハリウッドスターのキアヌ・リーブスもなっていて。

 僕に症状が出たときは、勤務していた公立病院づくりに成功し、全国から毎年1500人も医師らが視察にくるようなある意味、人生絶頂の時期でした。

人生の山の山頂が見えたとき

 背景にあるのは、キャリア。自分の人生の山頂が見えるということが大きいのです。それまでは、もっと高い山へと進んでいたのですが、どうもこのくらいの高さかと、見えてきて揺らいでくる。

 健康も影響します。体力の衰え、食欲の低下、睡眠の質……。男女ともに更年期を迎えることも要因になる。テストステロンという男性ホルモンは女性も男性の10分の1程度分泌されており、壁があっても壁を壊すチャレンジングホルモンなのです。これが男女ともに低下しやすくなり、影響をうけやすくなる。加齢という人間の波の中で、元気がなくなってしまう。

 家庭環境もあります。子どもの受験や巣立ち、介護、夫婦の不仲などです。

 軽めで乗り切る人も多いですが、うつなどで深く向き合う人もいます。更年期と同じで症状には個人差があります。

 ――鎌田さんはどのような症状だったのですか?

 僕は貧乏の中で生きてきて、親にも捨てられた経験があるので、「自分は強い」と思っていました。でも48歳の時、会議に出ると頻脈発作が出始めた。しゃべっていながら、冷や汗や発作が出てきました。初めはなんだろうか?とじっとしていられなくて、夜眠れなくなり、夜中にひとりでいられなくなり、妻のベッドにもぐりこんだりしました。大好きな在宅ケアの往診に行っても、家の前で冷や汗が出てしまい、20分くらい車の中で休んだりしていました。そこで、内科の先生に相談して、睡眠薬や頻脈発作を抑える薬を飲み始めました。やはり眠れないと仕事を続けていけないので。ただ、特別な病気というわけでもない。調べてみると、「ミッドライフ・クライシス」でした。

 50~52歳は症状が和らいでいましたが、前向きではありませんでした。睡眠薬を飲んで眠れていたので、僕の場合は精神科にはかかりませんでした。不調だけど仕事はだましだましやれました。

 振り返ると、ミッドライフ・クライシスは「人生の成長痛」だと思います。

人生の二毛作 「次世代のために」の好機

 ――成長痛ですか。対処法は?

 脱皮の苦しみ。言い換えるな…

共有