6月下旬、富山市内の芝生の上に置かれた浴槽に、中学生が次々とポリタンクで水を入れていく。クーラーボックスで運んだ氷を入れると、即席のアイスバス(氷風呂)が完成した。5分もかからなかった。
サッカーチーム「VIENTO(U-15)」は昨年、折りたたみ式アイスバス「P-PEC」を購入した。主な目的は疲労回復ではなく、熱中症の応急処置。1個5万円(税込み)だが、栗山政和代表は「子どもの命と比べれば、安いものです」
開発したのは兵庫県三田市で通販会社を営む川上貴さん(65)。海外ではアイスバスが応急処置の主流だと知り、持ち運びやすく少量の水で全身を冷やせるものを作った。現在、大学やスポーツ団体などに70個以上の導入例がある。
どこにもないなら「自分で作ろう」
川上さんは、オートバイ競技のモトクロスが趣味で、走行中に熱中症になった人を何人も介抱してきた。ただ、重症患者は一般に推奨されているわきの下や、太もものつけ根の鼠径(そけい)部を冷やしても効果が薄く、歯がゆい思いを感じていた。レースは山中で行われるため、救急車の到着も遅い。
レース会場で使うことを考え、簡単に持ち運べて、すぐに設置でき、少ない水で使えるアイスバスを探したが、どこにもなかった。商品開発にかけては素人だったが、「ならば自分で作ろう」と開発を決めた。
ホームセンターでビニールやプラスチックを調達し、熱意に共感したメーカーの協力を得ながら試行錯誤を繰り返した。水量を少なくするためには、人間の体形に合わせてひつぎ型にする必要がある。ただ、水圧でどうしても壁面が外側に倒れてしまう。
解決のヒントは垂直尾翼
開発に行き詰まっていたある…