スポーツクライミングの五輪予選シリーズに出場したアラナ・イップ=2024年6月22日、ブダペスト、加藤秀彬撮影

 約束の場所に歩いてきた彼女は、帽子をかぶっていた。木陰に移動すると、帽子を脱いで笑顔で言った。

 「これは日よけのためにかぶっていて、隠すつもりはありません」

 6月下旬、ブダペストであった都市型スポーツの五輪予選シリーズ(OQS)。スポーツクライミング女子複合に出場したカナダのアラナ・イップ(30)には、髪の毛がなかった。

 イップが初めて異変に気づいたのは、昨年12月だった。

 自宅に帰ってシャワーを浴び、髪にブラシをかけていたとき。突然、髪の毛がごっそりと抜け始めた。その後の数週間、頭を触る度に、大量の髪が手の中に落ちた。

 「何かおかしい」。皮膚科に行くと、免疫の異常で毛髪の組織が攻撃される「自己免疫疾患」だと診断された。はっきりとした原因はわからなかった。

 少し、安心した。髪への症状…

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