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展望台から見える設楽ダムの予定地(左)。工事用仮鉄橋や、新松戸橋の橋脚が一望できる=2024年11月26日、愛知県設楽町田口、戸村登撮影
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 設楽ダム(愛知県設楽町)の本体着工式が11月23日、現地であった。その必要性をめぐり長く議論が続いてきたが、水没予定地は新しい橋や道路の工事が進み、風景は一変した。一方、今後の本体工事予定地は地盤の弱さも指摘されている。依然として、予定通りの完成を疑問視する人たちもいる。

「完成後も地域、寂れぬよう」町長の願い

 着工式は、川の流れを変える「転流工」の完成などを受け、ダム本体の建設着手に合わせたもの。東三河の8市町村長と静岡県湖西市長らも参加した。

 「ダムの完成がこれ以上遅れず、完成後も地域が寂れることがないように」

 設楽町の土屋浩町長は式典でそうクギを刺した。町役場内に4月、「アウトドアまちづくり推進室」ができたばかりで、ダムに伴い整備される道路インフラなども活用し、地域振興をめざしている。

 この町は半世紀余り、ダム計画に振り回されてきた。当初の「反対」の態度をやめ、町は協力姿勢だが、近年も工期が2度延長されている。下流5市の負担で町内に整備される山村都市交流拠点施設の建設も繰り延べに。この間、人口は半分以下の4千人台にまで減っているのだ。

 水没地では全124戸が移転済みで、道路や橋を付け替える工事が進む。国道の設楽大橋を33メートル標高の高い新橋に造り替えるなど大規模なもの。今後の本体工事に向けて、作業員宿舎も完成し、年内に約150人が移り住む予定だ。

 その現場を望む特設の見晴らし展望台は、役場のある中心部から歩いて20分。人口密集地と現場が近い。ダムサイト予定地は表土がはがされ、地肌がむき出しだ。

なぜ仮鉄橋? 地盤に課題?

 目を引くのは、その手前の工事用仮鉄橋だ。

 右岸と左岸で延長合計1・8キロ、高さ最大30メートルの鉄橋が、山肌に沿い、ジグザグに山頂に登っていく様は壮観だ。

 通常なら工事用道路を造るところだが、道路のために山の斜面を削ると地滑りを引き起こしかねないため、山を削らない仮鉄橋をかけてダム完成後に撤去するという。

 国交省は2022年、工期の8年延長、工費800億円増を発表した。工費が膨らんだ背景には、物価高騰や働き方改革などもあるが、ここには地盤絡みの対策も含まれる。

 対策のメニューを見ると、国も地盤に神経を使っている様子がうかがえる。仮鉄橋のほか、①本体を据え付ける基礎の岩盤が、想定の10~20メートルよりさらに4・3メートル深い土砂の下にあることが分かり、1・5倍の150万立方メートルの土砂を除去する②完成後、ダムの水位変動により周辺で地滑りを誘発しないよう対策を増強する――などだ。

 付近は、太古から沈下と隆起を繰り返し、複雑でもろい地形と言われる。地滑り危険区域に指定されているところもある。

住民は疑問視「立ち止まって考え直すとき」

 「やはり、ダム適地ではない…

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