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珠洲焼作家の篠原敬さん。工房は「心のシェルター」だという。無心ではなく、考えを巡らせながら、ろくろを回すことで「心が形になる」=2024年12月9日、石川県珠洲市、金居達朗撮影

 中世日本を代表する石川県珠洲市の伝統工芸品「珠洲焼」。作家らは、能登半島地震で被災し、約20軒あった窯のほぼすべてが全壊した。地震の発生当初は、復興の見通しが立っていなかったが、全国からの支援や作家らの奮闘で、創作活動が始まりつつある。

 地震発生1カ月後の2月、作家団体「創炎会」代表の篠原敬さん(64)が営む「游戯窯(ゆげがま)」では、崩れた煉瓦(れんが)が山をなし、工房の中は、割れた陶器が散らばっていた。2023年5月の地震でも壊れ、同11月に直したばかりだった。今年1月には、初窯を控えていた。工房に残されていた作品数百点も割れた。それでも、篠原さんは「次世代のためにも決してあきらめない」と前を向いていた。

  • 直した窯、一度も使わずまた全壊 それでも珠洲焼作家は「諦めない」
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珠洲焼作家の篠原敬さん。初窯を控えていた作品はすべて棚から落下し割れてしまっていた=2024年2月17日、石川県珠洲市正院町平床、金居達朗撮影

 同県野々市市で2次避難生活を送っていた篠原さんは、数日おきに珠洲を訪れ、倒壊した窯の片付けなどを進めてきた。5月には、創炎会のメンバーらと、無事だった作品1200点の展示販売会を金沢市で開催した。2500人以上が来場し、完売したという。

 自身の窯は建て直せていないが、10月下旬に市内の「珠洲市陶芸センター」に、作家共同の窯が3基完成し、自身を含む作家らが創作活動を再開した。ここまでの道のりについて、篠原さんは、「下を向く暇もないほど目まぐるしく過ぎていった」と笑う。11月にはようやく仮設住宅に入居、作陶の日々に戻りつつある。

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珠洲焼作家の篠原敬さん。崩れた窯は徐々に片付けられている。冬の間は、窯作りに使うモルタルが凍るため、春を待つという=2024年12月9日、石川県珠洲市、金居達朗撮影

 地震によって「珠洲」という地名が知れ渡り、地名を冠する珠洲焼にも全国から支援が届く。篠原さんは「ある意味、チャンスと捉えている」。創炎会でも義援金口座(https://suzuware.jimdofree.com/)を開設し、支援を募っているという。

■見知らぬ地元女性からの声か…

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