田畑が広がる茨城県常陸太田市には、かつて水戸徳川家の大名が訪れたという書院があった。1970年には県指定文化財に指定され、観光客が訪ねる時期もあった。
しかし今、その場所は更地になっている。建物は昨年12月に解体され、庭石以外に面影を残すものはない。
その書院は、「堀江家書院」と呼ばれていた。庄屋の堀江家が江戸時代に建て、徳川光圀や斉昭ら歴代水戸藩主が地域の巡視の際に泊まったと伝わる。屋根はかやぶきで、コの字形のぬれ縁がある格式高い造り。庭には光圀が植えたとされる松もあった。
所有者の堀江茂邦さん(78)は「光圀や斉昭も来た歴史のある家。この家に生まれたからには後世に残したいという自覚をもってきた」。
高額負担と後継者問題 修理進まず
事態が一変したのは東日本大震災だ。2011年3月、震度6弱の揺れが書院を襲う。建物は傾き、壁や柱にひびが入った。翌月、業者が見積もった修繕費用は8千万円。県や市から補助金を最大限受けられたとしても、制度に基づけば12・5%にあたる1千万円は負担することになる。
高額な自己負担を前に修繕は進まなかった。
後を継げる人を見つけられないことも頭を悩ませた。堀江さんは後継者として考えていた娘を地震直後に病気で亡くした。孫と暮らしているが、まだ中学生だ。
また、仮に修繕したとしても、高額な維持管理費が残る。屋根のふき替えは20~30年に一度必要。県や市の補助を受けても、1千万円近い負担は避けられない。
「後のことを考えたら、ここらで区切りをつけよう」
建造物文化財の修繕や維持管理には、高額な所有者負担が発生する場合があります。記事後半では、個人所有の建造物文化財をどのように守ればいいのか考えます。
堀江さんが指定解除を希望す…