高校野球の未来について語った日本ハムの栗山英樹CBO

 今年も野球の季節がやってきた。3月18日に第97回選抜大会が始まる高校野球は近年、1週間500球の投球数制限や全国選手権での2部制導入など、様々な改革が進む。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表「侍ジャパン」を監督として優勝に導いた栗山英樹氏(63)は、高校野球の「今」と「未来」をどのように見つめているのか。変えていくべきもの、将来にも残していきたいものとは。

次の世代を守りながら育てる

 ――投球数制限やクーリングタイム、低反発の金属製バット導入など高校野球で新たな取り組みが続いています。

 プロ野球で監督をやっていて、ピッチャーライナーが本当に危ないと思ったことがありました。打球のスピードが遅くなるのはすごくいいこと。ただ、野球のゲームとしては、最後に本塁打でひっくり返るとか、劇的な展開をどうしても期待してしまう。でも、バットが悪いわけじゃなくて、選手たちが今後適応していくのかな。

 2部制やクーリングタイムなど、すべては子どもたちを守るためなんです。前提としてスポーツはまず命を大切にして、健全な育成があるはず。すごく良いことだと思う。必要なのはトライ・アンド・エラー。(賛成と反対の)色んな意見がある中でも、どんどんやっていく。それを基軸に、もう少しこうした方がいいよね、とやっていくことが重要。動きの速さは素敵だなと思います。

 ――高校野球で7イニング制が議論されています。

 経験上は八、九回に劇的なことが起こった。最後の本塁打でひっくり返るドラマに、どうしても期待する。それが取り除かれるというのは野球としてはあり得ない、という考え方は、もちろんあります。

 でも、それは日本高校野球連盟の皆さんもわかっている。暑さだったり肩やひじなどの体を守ることだったり、それから少人数のチームに負担があったり。いろんな要素があるから議論が始まっている。だから、全ての選択肢は討論すべきだと思います。

 たぶん、野球をやっている人はみんな「9回だ」って言うんですよ。僕も野球は9回だと思っています。でも7回を完全否定するつもりもない。

 (18歳以下の国際大会など)世界の流れは7回になっています。米国では地域によって、たとえば球数を減らすためにカウント1ボール1ストライクから試合を始めるとか、みんなが子どもたちを守るため、野球を守るためにやっている。もし将来、人が亡くなればどうしますか。僕は野球が大好きです。野球を守りたいです。

 ――高校野球だけでなく、将来はプロ野球も含めて7イニング制になる可能性もあると感じているそうですね。

 本当は9回でやる野球の面白さを追求したい。ただ、たとえばラグビーは最初トライが3点だったのが、4点になり、今は5点になりました。バレーボールは、サーブ権のあるチームにしか点が入らないサイドアウト制からラリーポイント制に変わった。

 ルールは変わっていくのです。「そんなルールはダメだ」と言いながら、変わってみると意外と大丈夫だったりする。野球は試合時間が長いと言われている。変なところにこだわって、野球が無くなってしまう、野球を見られなくなってしまうのが嫌なんです。

 次の世代を守りながら育てないといけない。スポーツは健康のためにやっているのに、健康を害したら元も子もない。人数が少なくても、イニングが短くなったら大会に出られるチームもあるかもしれない。

 トップレベルの話をしているわけではないんです。特別に上手じゃなくても、野球が大好きで一生懸命やっている子たちを守りたい。みんなで体を守って、順番にトップレベルにもっていく。子どもたちを守る考えがベースになる。

 ――子どもたちに野球を選んでもらえなくなる危機感がある、と以前からおっしゃっています。

 危機感は相当あります。サッカー、バスケット、バレー、気がついたら本当に選択肢が広がっている。

 漫画「ハイキュー‼」の影響があって、バレーボールはアジアで大人気です。全部見ましたが、泣くんですよ、毎回。すごく素敵。バレーにしろ、バスケにしろ、すごい頑張られている。じゃあ野球って何してるんですか。野球界でプロもアマも関係なく手を取り合って協力していきたいし、野球だけではなく、色んなスポーツが手を携えて発想を共有しなきゃいけないとも思います。

高校野球で変えてほしくないもの

 ――そんな中、2年前に現ドジャースの大谷翔平選手が小学生に6万個のグラブを贈りました。

 野球はお金がかかる。グラブもバットも。でも、野球の楽しさを知ってほしいって、みんな思っている。まず翔平が小学生をターゲットにしてくれた。だったら今度は、未就学児です。今は最初に触るボールはサッカーが多いと聞きます。野球のボールも、そしてサッカーボールも触ってもらって、その子にとってどのスポーツが楽しいかを知ってほしい。

 ――元花巻東・佐々木麟太郎選手ら高校卒業後に海外へ行く選手が増えています。

 自分の子どもだと考えたら、どうですか? 奨学金をもらい、いい大学に行けて、英語も覚えられる。野球ができる環境もすばらしい。誰もが選ぶ道にならないですか?

 日本のプロ野球もあるかもしれないし、メジャーもあるかもしれない。英語を話して、いろんな仕事に就けるかもしれない。すごく幅が広がる。

 これが現実です。どのスポーツでも起こっているし、もっと進むでしょう。だから日本の高校も大学も、子どもたちにとっての良い環境を与える努力を、みんなでしていくべきです。

 ――色んなトライ・アンド・エラーをやっていく中でも、高校野球に残していくべきもの、変えてほしくないものは。

 「甲子園」です。

 これはこれまで言ってきたことと矛盾するかもしれない。ドーム球場でやったほうが、子どもたちの負担がないじゃないかって。でも、高校野球は甲子園でやることに意味があると思います。

 青空の下で、サイレンが鳴って、みんながきちんとあいさつをしてスタートする。みんなが憧れて、自分もあそこでやりたいと思える場所がある。

 卒業生でなくても、地元の学校が出たときにふるさとを思い出して、応援する。グローバルな世界になればなるほど、地域の大切さを教えてくれる場所なはずです。だから夏の風物詩と言われる。そういうものが日本に残らなければならない。

 私は野球から、我慢することであったり、人のために尽くすことであったり、実際にプレーしていない人たちの重要性だったり、色んなことを学びました。人の生き方がそこにあると思います。

 本当に一生懸命やっている姿に人は感動する。2年前のWBCで、皆さんが感じた何か、あれだけ日本中の人に喜んでもらえた何か、頑張らなければいけないと思った何かは、必ず甲子園にあります。

 くりやま・ひでき 1961年生まれ、東京都出身。東京・創価高から東京学芸大をへて、83年ドラフト外でプロ野球ヤクルトに入団。90年に引退後はスポーツキャスターとして活動。2012年から10年間、日本ハムの監督を務め、16年に日本一。23年のWBCでは日本代表「侍ジャパン」を率い、3大会ぶりの世界一に導いた。24年1月、日本ハムのチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)に就任。

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