プロの漫画家として第一歩を踏み出した井口十与さん=2025年1月9日午後4時43分、静岡県富士市松本の富士高校、南島信也撮影

 静岡県富士市在住の女子高校生が今月末、プロの漫画家としてデビューする。中学2年から漫画家をめざして新人賞に応募し、7回目の挑戦で佳作を受賞した。昨年末には小学館とマネジメント契約を結び、夢だった道を歩き始めた。

 富士高校定時制4年生の井口(いぐち)十与(とよ)さん(19)。ペンネームは「富山(とやま)フジカレー」だ。漫画家をめざすきっかけになった「ドラえもん」の作者、藤子・F・不二雄が富山県出身で、自身は富士市で生まれ、富士山を見て育ったこと、大好物がカレー、そんな自分を表現した。編集者から一度決めたら変えられないと念を押されたが、押し切った。

 幼い頃から近所の図書館で漫画を読むのが日課だった。赤塚不二夫の「ひみつのアッコちゃん」、手塚治虫の「ブラック・ジャック」や「海のトリトン」……。読みあさった。

 ノートをコマ割りして自分でも漫画を描くように。中学2年の冬休み、小学館のコンクールに初めて応募した。選外だったが、審査員の「心温まる話でした」という言葉が励みになった。「楽しいな。描き続けよう」と思った。

 それからはひたすら漫画を描き続けた。石田スイ、山川あいじら、好きな漫画家のタッチをまねするなど、すべて独学だった。

「寝ているとき以外はずっと描く」

 定時制高校に進んだのは、漫画中心の生活をするため。入学後は「学校と寝ているとき以外はずっと描く」日々だ。昨年6月に小学館の漫画スクールで月例賞をとり、初めて賞金をもらった。担当編集者がつき、アドバイスももらえるようになった。

 こうして描き上げた作品「人が虎になった話」を、小学館新人コミック大賞に応募した。中島敦の「山月記」にヒントを得て、突然虎に変身した友人を友情で元の姿に戻すという奇譚(きたん)だ。審査員から「画面に勢いとセンスはある」(円城寺マキ)、「表情もしっかり描けていて勢いもあり今後が楽しみ」(真村ミオ)と評価を受けた。

 青山剛昌(入選)や高橋留美子(佳作)、弘兼憲史(準佳作)ら巨匠たちも入賞した歴史ある賞。十与さんと3歳上の姉との2人を女手一つで育てた母・敬子(ゆきこ)さん(55)は「トントン拍子だね」と喜んでくれた。

 富山フジカレーの仕事机はこたつだ。パソコンで描くのが主流になっているが、ペンの手描きにこだわるアナログ派だ。「手作り感がでるし、紙とペンの方がうまく描ける」。佳作の賞金とデビュー作の収入で、机やパソコン、スキャナー、コピー機などを買いそろえるつもりだ。「絵がまだプロレベルではないので、画力を上げるのが今後の課題」と話す。

 デビュー作は1月29日にウェブで配信される予定。鶴の恩返しをモチーフにした作品だという。「雑誌に連載して、単行本をたくさん出版する漫画家になること」。プロとして、さらなる高みをめざす道が始まる。

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