【動画】ミャンマーの人たちが支えるタイのエビ産業=笠原真、伊藤弘毅撮影

一皿から見える世界(1)

日本の食卓は、世界とつながっています。世界各地で取材する特派員が、食材にまつわる物語を追いかけます。後半には食材のメモもあります。

 真っ赤なスープが、湯気を立てながら運ばれてきた。「世界3大スープ」に数えられる、タイのトムヤムクン。中身をすくうと、手のひらほどの大きさのエビが姿を現した。

 殻をむき、一口。赤唐辛子とレモングラス入りの辛みと酸味がきいたスープで、ぷりぷりの身を流し込む。本場で味わう料理にスプーンを持つ手が止まらない。

 日本の正月、おせちにも欠かせない縁起物のエビ。実は、タイのエビは日本のスーパーにも並んでいる。

 タイから日本へは年間約8千トンのエビが運ばれる(日本の農林水産省、2023年)。インドやベトナムに次ぎ、5番目に多い。タイ水産局によると、タイのエビの輸出先は日本、米国、中国が大半を占める。

 エビ好きの記者は、その一大拠点に向かった。

 首都バンコクから車で45分のマハチャイ。中央エビ市場には、何台もの中型トラックが出入りしていた。

 だが、市場の中を歩くと、明らかに警戒されているのがわかった。

 薄暗い作業場の人影。立ったまま小さなナイフを小刻みに動かし、エビの殻をむく人たち。記者の存在に気づくと手を止め、次々と視線を向けてくる。

 「どこから来た」

 どきりとした。背後から、男…

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