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表彰式のあと、笑顔で写真におさまる千葉県柏市立酒井根中=2024年10月19日午後2時7分、宇都宮市文化会館、魚住ゆかり撮影
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 厚みがある音なのに、透明感がある。大人びた響きは、吹き渡る風のように心地よい。

 千葉県柏市の市立酒井根中学校吹奏楽部が奏でる音は「酒井根サウンド」と呼ばれる。中学校の吹奏楽部の音楽には顧問の個性が色濃く出るが、ここの音は指導者が交代しても、20年余の間、変わることなく受け継がれてきた。そんな音が新たな試練の時期を迎える。

 2024年10月19日、第72回全日本吹奏楽コンクールが開かれた宇都宮市文化会館に、いつもの酒井根サウンドが響き渡った。

 指揮は、春にタクトを受け継いだ粉川心教諭だ。酒井根サウンドと呼ばれるようになって5人目の指揮者の下、酒井根中は17回目の金賞に輝いた。

 「ここまで本当によくがんばったなあ」

 酒井根サウンドの生みの親の犬塚禎浩教諭と前顧問の板垣優麻教諭が声をかけると、いつも冷静な粉川さんの目から、大粒の涙があふれた。

 「顧問が代わると、普通は何もかも変わる。でも、私も大好きなこの音は、変わらない。何なんでしょうね」と、犬塚さんは笑った。

楽譜がひらいた全国大会の扉

 犬塚さんが顧問になったのは1994年。当時は部員も少なく、学校としての実績もなかった。音大ではピアノ専攻。前任校でも吹奏楽部顧問だったものの、「熱心じゃなかった」という。ところが、酒井根中では部員たちの「うまくなりたい」という声に押され、指導は熱を帯びた。2000年には、全国大会を目指すA部門(大編成)で東関東吹奏楽コンクール初出場を果たした。

 転機となったのは01年秋…

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