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佐藤美香さんと愛梨さんの絵をあしらった自動販売機=宮城県東松島市
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 真っ赤なハート形の可愛らしい魚、色とりどりのタコやイカ、ヒトデたちが、青いクレパスの世界を躍動する。東日本大震災で命を落とした6歳の女の子が残した絵が今年、自動販売機のデザインに生まれ変わった。あの日の教訓を伝えている。

 亡くなったのは、宮城県石巻市の幼稚園の年長だった佐藤愛梨さん。絵は絵画コンクールに応募しようと、東日本大震災の半年前の夏休みに、ガリガリと迷いなく描き上げた。

 きらきらした物が好きで、虹や四つ葉のクローバーがお気に入りだった愛梨さん。絵では虹も描き、その上にとんがり屋根のおうちも立つ。「ハートのお魚ちゃんが、みんなを幸せにしてあげてるの」。母の美香さんにはそう説明したという。

 2011年3月11日。愛梨さんらが乗った送迎バスは地震後、大津波警報が鳴り響く中で、高台の安全な場所にあった幼稚園から海側の低地に向かった。そして、津波と火災に巻きこまれ、他の4人の園児とともに亡くなった。

 卒園式を4日後に控えており、あの日は幼稚園にあった作品を持って帰ろうとバスに持ち込んでいたため、思い出の品々はほとんど燃えてしまった。そこで、美香さんは、コンクールに応募した作品を返してもらい、自宅に保管していた。

 美香さんは愛梨さんのことを講演するようになった。震災の伝承に取り組む一般社団法人「バーズアイ」(利府町)で、幼稚園や保育園で避難訓練をしたり、語り部活動をしたりと、震災の風化を防ぎ、防災意識を高める活動にも尽力している。ただ、活動の中心になっている法人への寄付は減り、活動資金は年々先細りつつある。

 そんなあるとき、自販機の保守管理を担う会社に勤める弟から「寄付型自販機」のことを聞いた。飲料を買うと、売り上げの一部が寄付となる仕組みで、愛梨さんの絵をデザインとした自販機を通じて、法人への寄付を募ることを思いついた。

 自販機には、絵とともに「一番の防災 それは・・・『忘れないこと』」「迷わず高台へ」という言葉も添えられている。美香さんは「娘は、教訓になるために生まれたわけじゃない。でも、子どもたちの命が守られる世の中になってほしい」と願う。

 自販機は今年、法人の活動に賛同する東京都八王子市の商業施設や愛知県の病院などが設置。宮城県内では奥洲物産運輸本社(東松島市)、仙台白百合女子大(仙台市泉区)など四つの会社などが備え付けた。「たくさんの人に知ってもらい、活動の支援の一助になって頂けるとありがたい」と美香さん。

 東日本大震災以降も近年、地震は頻発している。1月には能登半島地震があった。首都直下地震や南海トラフ地震なども懸念される。災害が起きた時、自分がどこにいるかは分からない。「命が助かってほしい」。その思いを自販機に込めた。

 美香さんは「何かあった時、子どもたちは大人が守ってあげなくちゃいけない。『避難しなくちゃ』。自販機を見る度、そんな言葉を思い出してほしい」と話している。

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