今年1月の能登半島地震で被災し、やむなく故郷を離れた人たちが集い、心を寄せる場がある。石川県珠洲市正院町の地元住民によるイベント「心の復興マルシェAka Aka」。5月の第1回に続き、9月に予定していた第2回は豪雨で中止となったが、日を改めて開催にこぎつけた。
11月17日、マルシェの会場となっている仮設住宅の集会所を包み込むように、ピアノの音色と歌声が響いた。新田彩乃さん(35)は弾き語りを終えると、こう結んだ。「珠洲で歌う時間をもらえてすごく幸せでした」
珠洲で生まれ育った。1月の地震で家は大きく傾き、屋根が抜け、壁が崩れた。着の身着のままで避難所にたどりつき、1週間ほど過ごした後、関西に住む妹のもとに身を寄せた。今は両親と金沢市内のみなし仮設住宅で暮らす。「珠洲を捨てたわけじゃないけど、安全なところに『逃げた』という罪悪感があった」
地元の先輩に葛藤を打ち明けると、こんな言葉が返ってきた。「彩乃も同じ被災者だよ。誰が大変ってことない。みんな大変やから」
小さい頃からピアノは弾いていて、歌うことも好きだった。震災後、通っていたボイスレッスンの先生に誘われた。「一緒に能登で歌おう」
会社員として働きながら、月1回、県内各地をめぐる音楽ワークショップ「Pray for NOTO」に参加しているほか、今回のようにソロでも活動している。歌を聴きながら涙を流す人もいる。でも、最後は笑顔になる。「歌うことで私も救われている。明日からちょっとがんばってみようと思ってもらえたらうれしい」。これからも珠洲で、能登で歌い続ける。
珠洲で理容室とエステサロンを営んでいた上野佐知子さん(65)は、今回初めてマルシェに出店。上野さんによる施術は好評で、客足が途絶えなかった。「喜んでもらえるし、自分も楽しい。やっぱりいいなって。それができなかったから」
自宅兼店舗は全壊。昨年5月…