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アトラスタワー白金レジデンシャルの玄関部分にあるマンションのロゴ=2024年9月28日午後0時17分、東京都港区、中野浩至撮影

 全国のマンションで建物が老朽化し、住民が高齢化する「二つの老い」が進む中、建て替えに行き詰まるケースが目立つ。経済的な負担など個々の事情が絡み合い、所有者の意見が簡単にそろわないからだ。それでも建て替えを実現したマンションは、課題をどう解決したのか。高級住宅街として知られる東京・白金のケースについて、オーナーやディベロッパーに聞いた。

 東京都港区の白金高輪駅から徒歩3分の住宅街に、周囲より頭一つ抜けた23階建てのタワーマンションが立つ。

 「アトラスタワー白金レジデンシャル」。2020年1月まで、そこには「日興パレス白金」という名の7階建てマンションがあった。

 当時、管理組合理事長を務めていた会社員の安保(あんぼ)伸一さん(65)は「建て替えて本当によかった」。同じく副理事長だった自営業、草原なつ子さん(75)は「道行く人が新しいマンションを見て『うらやましいね』と言うのを聞くとうれしい」と語った。

 旧マンションは1981年築。2000年ごろに大規模修繕をしようとしたが、積立金が足りず、銀行から数千万円を借り、屋上と外壁の修繕を行った。それでも、雨漏りがひどくなり、13年ごろから所有者から建て替えの要望が出るようになった。

半数超は貸し出し、台湾在住オーナーも

 ただ、実現するには乗り越えなければならない壁がいくつもあった。

 投資目的で購入した人が多く、84戸のうち44戸は貸し出されていた。所有者は東北から九州まで全国各地に散らばり、台湾に住んでいる人もいた。全員から建て替えへの意向を聞く必要があった。

 マンションを建て替える場合、所有者の賛成だけで決議できる。だが、借り主が立ち退かなければ着工はできない。立ち退き料は所有者が負担しなければならない上、引っ越し先を紹介するといった手間もかかる。

 当時、マンションの1階には人気のとんかつ店が入り、新たな行き先を探す必要があった。また、マンション住人の所有者の中には、80代の高齢者が数人いたほか、相当なお金をかけてリフォームをしたばかりの若い人も。引っ越し代や仮住まいの家賃もかかるため、建て替えには否定的だった。

連絡がつかないオーナー、立ち退きたくない借り主、リノベーションしたばかりの部屋……。建て替えを進めたい管理組合の前には数々のハードルがありました。それでも決議では96%の所有者が賛成に回りました。実現の鍵となった、「アナログな手法」とは。

「延命」より建て替えを

 建て替えを選ばず、修繕して…

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