鈴木康友知事(左)と面談するJR東海の丹羽俊介社長=2024年6月5日午後4時42分、静岡市葵区の県庁、代表撮影

 JR東海の丹羽俊介社長が5日、静岡県庁を訪れ、鈴木康友知事と初めて会談した。JRが早期着工を求めるリニア中央新幹線静岡工区について、鈴木氏は大井川の水資源の確保と南アルプスの環境保全などへの対応を求めた。加えて、東海道新幹線の停車本数増といったリニア停車駅のない県内への経済的なメリットも示すよう要望した。丹羽社長は「県をはじめ地域の方々に丁寧に説明をして真摯(しんし)に対応して参りたい」と応じた。(田中美保、青山祥子)

 会談は非公開で40分ほど行われ、終了後それぞれが報道陣の取材に応じた。

 丹羽社長は静岡工区について、早期着手に向けて関係を強化したい考えを伝えた。これに鈴木氏はリニア推進の立場を示したうえで、「水資源の確保と環境保全の両立を図る方向性は堅持していく」と応じたという。

 会談後、リニア問題解決のメドについて問われた鈴木氏は、県が2月にまとめた28項目の課題への対応と、大井川の流域市町の納得が前提とし、「一つ一つ課題をクリアすることによってプロジェクト推進に道が開ける」と話した。

 鈴木氏は会談で、岐阜県瑞浪市でリニア工事が原因とみられる水位低下問題についても触れた。この問題を受けて県は5月31日、JR東海に山梨・静岡県境周辺のボーリング調査への対応などに関して文書で回答を求めた。JR東海は会談を前に県に回答を返したが、丹羽社長は鈴木氏にも直接説明したという。

 丹羽社長は取材で、岐阜と静岡では「状況がだいぶ異なる」としたが、県内で心配する声が上がっていることから、流域市町などでつくる「大井川利水関係協議会」を開催してもらい、JRの役員が直接説明する考えを示した。

 鈴木氏は、リニア開業による県民へのメリットを示すことも求めた。新幹線の停車本数増に加え、富士山静岡空港近くの新駅設置も要求したという。ただ、「長期的な課題で、具体的に話しができる段階ではない」との認識も示した。丹羽社長も「課題がいろいろあるが、対話をしていきたいと伝えた」という。

 JR東海は川勝平太前知事とも2020年、22年、23年にわたってトップ会談で早期着工を求めてきたが、平行線が続いていた。

 この日の会談冒頭、鈴木氏は丹羽社長をなごやかな表情で迎えた。会談後に鈴木氏の印象を聞かれた丹羽社長は、「大変有意義な話をさせていただいた」と繰り返した。さらに「今後とも鈴木新知事とは緊密なコミュニケーションをやっていけると感じた」とも述べた。

岐阜県の水位低下でJR東海からの回答概要

【水位低下の経緯】

2月20日に観測用井戸の水位低下を確認。同26日に瑞浪市に報告。3月10日に地域住民に説明した後、14カ所のため池や井戸などで水位低下を確認。5月1日に岐阜県に報告。その後、トンネル掘削を中断。

【今後の対応】

・応急措置を実施後、深井戸を掘削して給水を開始。浅井戸の設置も計画。

・引き続き薬液注入を実施し、トンネル湧水(ゆうすい)量の減少を図る。

・今後の対応は岐阜県環境影響評価審査会の意見を踏まえて実施。対応や検討状況は随時、地域や岐阜県、瑞浪市に報告し、真摯(しんし)に対応していく。

【静岡県境周辺のボーリング調査への対応】

・県境に近い区間のボーリング調査の間、常時計測している田代観測井において、現地に出向く頻度を1カ月に1回から、2週間に1回に増やし、地下水位のデータを確認する。

・田代観測井で水位低下が確認された場合はすみやかに県に報告し、スリバチ沢の流量を確認。この場合やボーリング湧水量がこれまでと異なる傾向を示す場合、地下水位などの確認頻度を1週間に1回に増加させる。湧水量の傾向は県や専門部会委員の意見も聞いて判断する。

・地下水位の低下に伴うスリバチ沢の流量の減少が確認される場合、ボーリング湧水を止めたうえで、湧水と地表水との関連性を把握するために地下水の化学的な成分分析を実施する。

・県境に近い区間のボーリング調査の間、ボーリング湧水量や水質のデータは県に毎日報告。地下水位の低下やスリバチ沢の流量減少を確認した場合も県に報告し、専門家などに相談する。

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