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居酒屋で覚醒剤を売るな!――。
男になりたいならホストと闇バイトをするな!――。
「日雇い労働者のまち」といわれる大阪市西成区の釜ケ崎の街頭に、ひときわ目を引く看板がある。
記者が取材をすると、どちらの看板も同じ人物が設置したという。
何のために看板を掲げたのか。話を聞きに行った。
不動産管理会社を営む利川文男(本名・文夫)さん(76)。
2000年に競売で釜ケ崎の雀荘を購入したのをきっかけに、この地域との関わり始めた。
20代の一時期、暴力団組長の運転手をしていたこともあるが、組員の荒れた生活を見てこのままで良いのかと思い悩んだ。
その後、造船所で働いてお金をため、不動産管理の道に進んだ。
自らも食べるのに困った経験があり、お金がたまったら困窮者のためになることをしたかった。
その思いから釜ケ崎で健康づくりにもつながるボクシングジムを展開したり、生活保護の受給者らが暮らす賃貸マンションも運営したり、炊き出しを実施したりしてきた。
「強引に女性を食い物にして人生をめちゃくちゃにしてしまうホストも、闇バイトに関わってしまう人も、この地域にそこそこいるのは知っている。看板で劇的に変わるわけじゃないかもしれないけど、踏みとどまって考え直すきっかけになってほしくて」
今年に入って、「男になりたいなら」の看板を、コインパーキング、商店街のフェンス、店舗などの5カ所に掲げた。
「覚醒剤を売るな!」の看板を掲げたのは5年前だ。
知人に貸した釜ケ崎の物件が無断で又貸しされ、ラーメン屋が開店した。
店内で覚醒剤の注文を受け、代金と引き換えに車のナンバーを書いた紙を渡す。
買った側は近くのコインパーキングで該当の車の下をのぞき、覚醒剤の小袋を手にするという密売手口が繰り返されていたという。
退去を求めたが、簡単には出て行ってくれなかった。
自分の物件を犯罪拠点にしてほしくない。このまちから覚醒剤をなくしたい。そう考え、アピールの看板を出した。
その数カ月後、この店に逃げ込んだ男が覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕された。容疑者をかくまった疑いで店の関係者らも逮捕された。
この事件を受け、ようやく退去。2階の和室を見ると、畳が泥だらけで大麻の種らしきものが落ちていた。
今では若者らが足を止め、看板を撮影していく。そんな「名物」看板になった。
利川さんは「新たな看板も『名物』の仲間入りをして欲しい」と話している。
■一変した「シャブのまち」…