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亡くなった教諭遺族側と和解が成立したことを説明する針谷力市長(左)=2025年1月8日、茨城県古河市、床並浩一撮影

 2017年に自殺した茨城県古河市の男性教諭の遺族が市に損害賠償を求めた訴訟は、市が遺族側に7千万円を支払うことで8日和解した。訴訟と並行して教職員の働き方について見直しを進めてきた市は再発防止を誓うが、教育現場と対話を重ねていくことが求められる。

 教諭の自殺は長時間労働や連続勤務に対して学校長が安全配慮義務に違反したことが原因として、遺族が死亡逸失利益や慰謝料など約1億1千万円の支払いを求めて水戸地裁下妻支部に提訴したのは20年8月。教諭は13年4月に異動で市立中に赴任。生徒指導主事のほか、放課後は部活動の顧問として過労死ラインの月80時間を超える残業を続け、うつ病を発症した。同支部は24年2月、市に約1億円の支払いを命じたが、市は東京高裁に控訴した。

 今回の和解は、一審で全面勝訴した遺族側と敗訴した市側の双方が互いの過失を認めることによる痛み分けで、市は「歩み寄り」と強調する。

 市によると、双方に和解を勧告した高裁(金子修裁判長)は、長時間の時間外労働や校長の安全配慮義務違反を改めて認定。その一方で、一審で「採用の限りではない」として退けられた部内での軋轢に伴う教諭のストレスなど、市側が主張した内容がうつ病発症や自殺に関係している、との判断を示した。原告側の過失の割合は4~5割程度が相当だとして、賠償額を考慮すべきだと結論づけた。

 和解成立を受け会見を開いた針谷力市長は、「双方に過失があるとの裁判所の言葉が非常に大きい。人の命が失われた事実を重く受け止め、再発防止に取り組む」と述べた。

 遺族側代理人の金子直樹弁護士は「長時間労働に対する安全配慮義務違反が認められた。市側の責任を100%認めた一審判決を踏まえれば忸怩(じくじ)たる思いはあるが、早期解決を含めた総合的な判断で和解することにした。再発防止を誓う市側の取り組みを信用して見守っていく」と話す。

 和解金は公金から支出されるが、市側は「互いに過失があると認識した上での和解で、(国家賠償法の規定する)重大な過失にあたらない」として、当時の校長や職員に返還を求めることは見送る方針だ。

 市教委は18年度から、市立小中学校に勤務する教職員の出退勤状況を正確に把握するため、パソコンで管理する新システムを導入。それまでのタイムカードや手書きによる出勤簿をやめた。ストレスチェックや産業医の面談などメンタル面の指導体制も整備した。

 また部活動の時間についてもスポーツ庁から示された指針などに基づき、平日は4日間(1日2時間上限)、週末は土日のいずれか(3時間上限)で、1週間11時間までと厳格化した。

 一審判決によると、教諭の長時間残業はうつ病発症前の1カ月間が約178時間にのぼっていた。市側は「業務」ではなく長時間在校していたとの立場を主張してきた。

 針谷市長は「教職員のメンタルヘルスに留意して再発防止策を講じるよう、和解を受けて改めて市教育長に指示した。心身共に健康に働くことができる環境を整えることが重要と考えている」と説明。島村光昭・教育部長は「今回の和解を機に強い決意で取り組んでいく」と話した。

教諭自殺をめぐる主な出来事

2013年4月 教諭が古河市立中学校へ赴任

2017年2月 うつ病と診断、その後自殺

2020年8月 遺族が水戸地裁下妻支部へ提訴

2024年2月 遺族が全面勝訴、判決を不服として市が東京高裁に控訴

2024年10月 高裁が双方に和解勧告

2025年1月 和解成立

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