国内外のサッカー界で近年、脳振盪(しんとう)の危険性を見つめ直す動きが広がっている。脳振盪が発生した際の交代ルールが変わり、国際サッカー連盟(FIFA)も昨秋、「疑って守れ」と銘打った啓発キャンペーンを展開。脳への影響を懸念し、子どものヘディングを制限する事例もある。競技人生はもちろん、命に関わるリスクも潜む。

  • 【そもそも解説】脳振盪の症状とは 接触プレーに注意、復帰へ厳格化
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サッカーで脳振盪が起きやすい場面

4年で12回、脳振盪に苦しんだ元Jリーガー

 「目に見えない怖さがある」

 元Jリーガーの鹿山(しかやま)拓真さん(28)は、選手生活を奪われた脳振盪の恐ろしさをそう語る。

 はじまりはプロ1年目の2019年夏、J2のV・ファーレン長崎時代にDFとして出場した公式戦だった。

 前半、浮き球に反応して相手と競り合った際に、ジャンプした体が相手に乗り、前方に1回転して落下。後頭部を地面に打ち付けた。自覚症状はなく、立ち上がってプレーを続けたが、その記憶はない。

 ハーフタイムの控室では「頭を抱えてうずくまっていた」と、後にスタッフから聞いた。近くの大学病院に救急搬送され、「脳振盪の疑い」と診断された。

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現役引退後はアスリートのキャリア支援に関わる仕事をしている鹿山拓真さん=マイナビアスリートキャリア提供

 記憶があるのは、母の車で実家に戻ってから。部屋の照明が異様にまぶしく感じた。母の話す言葉が大音量で聞こえ、無性にいらいらした。

 1週間ほど自宅で安静にした後、チームに戻り、段階を踏みながら体を動かした。約1カ月後に全体練習に合流した。

 だが、後遺症に悩まされた。練習や試合で相手と接触したり、ピッチに頭を打ちつけたりするたび、頭が揺れる感覚や吐き気を感じた。その都度、チームドクターやトレーナーに相談し、練習を休んだ。

 2年目からは、脳振盪の予防に効果があると医師に勧められて、マウスピースを着用。練習では頭を守る「ヘッドギア」をつけた。

 それでも再発を防げなかった。

 21年夏、当時J3のカターレ富山に期限付き移籍して最初の練習で味方のひざが頭にぶつかった。フラフラと頭が揺れる感覚があったが、新しいチームでのアピールに必死で練習を続けた。翌日の練習試合。味方のGKと相手FWに挟まれる形で、再び頭を打った。倒れ込み、救急搬送された。

 県内の医師だけでなく、東京…

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