五輪開幕を約3カ月後に控え、街の景色が日ごとに変化するパリ。夏季大会は1924年以来、100年ぶりの開催となる。

 「広く開かれた大会」がスローガンに掲げられ、誰もが知る観光名所も活用される。とくに、史上初めて競技場外で実施予定の開会式は、今大会を象徴するイベントでもあり、パリ市民の日常生活と強く結びついたセーヌ川が舞台となる。

 華やかな本番がいよいよ近づいてくる中、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃など、世界情勢は混迷を深めている。また、街中で開かれる五輪とあって、環境面への配慮やテロ対策も課題となる。

開催都市で暮らす人たちは、「平和の祭典」にいま何を思うのか。
新緑のセーヌ河岸を歩き、それぞれの声に耳を傾けました。

セーヌ川を愛するアンドレアとチボー

 日が昇り、セーヌ川の水面がきらきらと輝く。ジョギングするランナーたちが行き交う中、アンドレア(28)とチボー(28)は再会を喜び、抱き合った。アンドレアは、パリに5年間住み、今は郊外で暮らす。フランス警察で働き始めたロンドン出身の恋人、チボー(28)とは1カ月ぶりに会えた。2人にとってセーヌ川は特別な場所だという。

自転車でセーヌ川沿いを下っていたアンドレア(左)が、スケートボードに乗ったチボーを見つけて駆け寄った。2人の再会の場所はいつもセーヌ川と決まっている=2024年4月23日、パリ、柴田悠貴撮影

 「自分の国で開かれるというのが誇らしい。彼は仕事柄、警備で大変だと思うけど、フランスにたくさんの人が来てくれるのもうれしい。選手たちには、がんばってメダルを獲得してほしいな」

声を上げる翻訳者 スザンヌ

 銃を持った兵士が見守る中、デモの参加者たちがパレスチナの国旗を掲げ、道路を突き進む。ひときわ大きな声を上げるスザンヌ(48)はロンドン出身の翻訳者だ。2005年からパリ市郊外に住む。

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パリ近郊であったデモに参加したスザンヌ(中央、48)は、イスラエルの軍事行動と人種差別に対する批判の声を上げ続けた=2024年4月21日、パリ、柴田悠貴撮影

 「正直、オリンピックはどうでもいいと思っている。パリ市民に与える影響の方が心配。それに、ガザで起きていることを考えるとそれどころじゃないでしょ? 『平和の祭典』なんていうけど、それで戦争がなくなるわけじゃない。一体なんのための大会なのか」

スケボー少年 ジャン

 エッフェル塔が見えるまっすぐに舗装された道で、子どもたちが集まっていた。その中の1人、ジャン(12)は、週末は仲間とスケートボードを楽しむスポーツ少年だ。

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ジャン(中央、12)は五輪競技を楽しみにしているが、期間中は家族とパリを離れ、テレビで観戦するという=2024年4月20日、パリ、柴田悠貴撮影

 「世界がこの街に夢中になってくれると信じています。個人的には、スケートボードの競技をテレビで見るのが楽しみです。短い間だけど、世界の戦争がとまって、誰もが楽しい時間を共有できると期待しています」

■パティシエ修業中のジュリー…

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