理不尽にレッテルを貼られて県庁を追い出された斎藤さんが、一人で再起し、復活する――。大阪での維新伸長や都構想住民投票を取材してきたライターの松本創さん(54)は、斎藤元彦氏が再選された兵庫県知事選の現場で、そんなストーリーが有権者を動かしていくことを肌で感じたという。支持を急激に広げた「復活のストーリー」の引力、危うさについて聞いた。
涙やおじぎから「そこまで悪くないのでは?」
――斎藤氏の支持拡大へのSNSの影響力が指摘されています
SNSが選挙戦で斎藤氏に好意的な情報を広げる装置になったのは間違いない。そこに「斎藤氏を応援するために立候補した」と公言した立花孝志氏の発信がブーストをかけ、急拡大させたと思います。しかし、それはあくまで「増幅」でしかない。元々の土壌がなければ動きは起こりません。
まず、告発文書問題の数カ月にわたる連日の報道で、斎藤氏の知名度が良くも悪くも高まっていた。元県民局長の死去やパワハラ、「おねだり」といった疑惑に対してまともに説明しない斎藤氏に、県議会やマスコミは厳しく追及を重ねました。その反動で、「いじめ」のようだ、若い知事がかわいそうだ、という声を9月初めごろから聞くようになりました。斎藤氏が(県議会各会派からの辞職要求を前に)記者会見で涙を流した9月11日を境に、同情の声が目立つようになりました。
もっとも、涙を流した理由は3年前の選挙で会派を割って支持してくれた自民の県議に申し訳なく思ったからだ、と斎藤氏は言っています。亡くなった職員を思ってのことではなく、個人的な事情だったわけですが。
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――選挙戦取材で、斎藤氏が体現する「復活のストーリー」が支持拡大の原動力になっている、と分析されていました
9月末に失職した斎藤氏が1人で駅前に立つ様子が報じられ、SNSでも広まりました。現場に行くと、「背筋の伸びた、きれいなおじぎに好印象を持った」という声をたびたび聞きました。手に提げたビニール傘の持ち手に「さいとう」と書いてあって感動した、という人もいました。その質素さ、飾らなさがいい、というわけです。
これは通俗道徳なのですが、その所作やイメージが「斎藤さんはそこまで悪くないのでは?」という考えるきっかけになった面はある。一人駅立ちが「広報戦略」だったのか、それしかできることがなかったのか、現時点では判然としないのですが。
いずれにせよ、こうして「理不尽にレッテルを貼られて県庁を追い出された斎藤さんが、一人で再起し、復活する」というストーリーが自然発生的に立ち上がっていったように思います。
「ベタな話」だからこそ受け入れられた
――そのストーリーを増幅させたのがSNSだったと
選挙戦では大都市部だけでなく、人口3万人程度の地方都市でも、斎藤氏の演説に300~500人もの人々が集まり、拍手と「斎藤コール」がわきました。あんな光景は見たことがない。
話を聞くと「テレビだけ見て…