横断歩道を多くの人たちが向かい合って歩くと、だれかが指示したわけでもないのに、いくつかの列が自然とできる「レーン形成現象」がおきる。歩行者同士がお互いに影響し合うことで、全体としてなめらかな流れが組織化されていくが、どういう仕組みで形成されるのか、京都工芸繊維大や東京大、長岡技術科学大の研究チームが50人近くで実験してみた。すると、個人がバラバラの足並みで歩いた方がむしろ、列の流れが壊れにくく、しなやかだという結果が出た。
研究チームの京都工芸繊維大の村上久・助教は「集団全体でまとまるなら個々の動きは自由にできない、逆に、個々が自由すぎたら全体のまとまりがなくなる、と二者択一に考えがちだが、バラバラに動いていることが個々の自由さや多様性を生み出し、全体としてのまとまりがよくなる例を人間で実証できた」と話している。
群集の歩行の研究では、例えば、同じ方向に進む場合、後ろの人が前の人と同時に同じ足を踏み出せば衝突を避けやすく、いかに同期(シンクロ)させるかが重要だと考えられてきた。メトロノームの音や音楽を聞かせて、個人の動きのばらつきを減らすことで、集団の流れをコントロールし安定化させるという研究もあるが、個人のばらつきを同期させても、アクシデントがあればむしろ破綻(はたん)しやすいのではないかという懸念もある。音楽などがない場合は、個人の動きが同期しているのかどうか、よくわかっていなかった。
研究チームは48人の大学生(平均21歳)を24人ずつ2グループにわけ、横断歩道のように見立てた幅3メートル、長さ10メートルの空間を、向かい合う方向で歩いてもらった。
一定のリズムのメトロノームの音を流してテンポを合わせて歩く場合と、音なしでふつうに歩く場合を、それぞれ20回ずつ試し、真上からのビデオ撮影や両足首につけた加速度計で、列の形成や個人の歩行状況を探った。
その結果、メトロノーム音を聞いた場合は歩行者の足運びが同期していて、できた列の数が多かった。一方、音がない場合は足運びは同期しておらず、列の数が少なかった。
ただ、メトロノーム音がある場合は、同じ速度で歩き続けた場合、向かい合った人同士が衝突するリスクが高くなることがわかった。列の数が多い分、列そのものは細くなり、対向する歩行者との接触面が増えるためで、実際に衝突寸前に回避するため、肩を大きく回転させてよける動作をしていた。
また、列ができる過程で歩行…