世界遺産「人権・解放・和解:ネルソン・マンデラ遺産群」の構成資産の一つで現在は大統領府などが入る「ユニオンビル」にそびえ立つネルソン・マンデラ像=2018年2月、石原孝撮影

 木づちを打った後、インド人の議長が南アフリカの公用語の一つ、ズールー語で祝辞を述べた。少しはにかむ。会場からは、歓声が上がる。このとき、南アフリカの資産「人権・解放・和解:ネルソン・マンデラ遺産群」が世界遺産に登録された。

 その後、南アフリカ代表団によるスピーチがあり、こう締めくくった。

 「貧困と闘い、人権、自由、和解を守ることは、我々の手にかかっています」

 各国の代表団は祝辞を述べようと、こぞって南アフリカ代表団のもとに向かった。会場は、この日一番の盛り上がりとなった。

 今夏インド・ニューデリーで開かれたユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会では、「佐渡島(さど)の金山」の他に23件の資産が新たに世界遺産に登録された。マンデラの遺産群もその一つ。ただ、この登録には特に注目が集まった。

 昨年導入されたばかりの新たなカテゴリーによる登録だったからだ。

 南アフリカでは20世紀に入るとアパルトヘイト(人種隔離)政策が進められ、1948年以降本格化した。マンデラは反アパルトヘイト闘争を率いたが、62年に投獄され、牢獄(ろうごく)で27年間過ごした。91年の政策撤廃後、94年に大統領に就任した。

 人権のために戦い、黒人を中心とした非白人の解放に尽力し、白人と非白人の和解に努めた。この英雄が生きた跡を後世にも伝えていきたい。そんな思いが資産名には込められている。

 世界遺産への登録が決まった資産は、マンデラが収監された施設やアパルトヘイトへの抗議デモの参加者が虐殺された場所など14の遺産群で構成されている。この資産について世界遺産委員会は「記憶の場」という新カテゴリーで登録を決議した。

 世界遺産には文化遺産と自然遺産がある。文化遺産は、「遺跡」「建造物群」「記念物」に大きく分けられる。さらにその下に、「20世紀の建造物」や「文化的景観」「産業遺産」などのサブ・カテゴリーがある。これらに加わる形で「記憶の場」は、昨年導入された。

日本でも「記憶の場」による登録を目指す場所があります。ある病に対する差別という負の記憶を抱えた島です。記事後半では、世界遺産登録に向けた思いを紹介します。

 きっかけは、2017年にさ…

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