公園の暗がりのベンチを、瞬く間に10人ほどの警官が囲んだ。
警官たちは中年すぎとみられる夫婦の手荷物を開けさせ、懐中電灯で照らしながら中を調べている。うち1人が無線で話す声が聞こえる。「ろうそくをともしていた」
民主化の理想に燃えた多くの若者が軍の銃弾で命を落とした天安門事件から35年となった4日夜、香港のビクトリア公園を歩いた。武力弾圧の非を認めない共産党政権下で中国本土の追悼活動は絶望的な中、この公園は5年前まで、毎年10万人以上が集まる追悼集会の場となってきた。その追悼活動のシンボルの一つが、ろうそくだった。
- 天安門事件35年、香港でも厳しい警戒 追悼の舞台は日本、台湾に
- 生きづらさ感じ日本へ 天安門事件追悼に集う中国の若者たちの思いは
しかし、2019年の大規模な抗議デモに危機感を感じたのか、中国政府は翌年に香港国家安全維持法(国安法)を施行。反政府的な言論や活動を抑え込んできた。
今年は6月4日を待たずに「人々を扇動した」などとして警察は8人を逮捕。事件の日付を暗示する「5月35日」という貼り紙や追悼の意味がこもるキャンドルライトを並べた店も警察のターゲットになった。
当然、公園はこの日夜、数十メートル歩けば警察とすれ違うほどの厳戒態勢となった。大きな集会やデモはなく、地元の友人は「きょうはここ数年でいちばん静かな6月4日だ」と言った。
そんな厳戒態勢でろうそくをともしていたのが見つかったあの夫婦は、きっと連行されてしまうだろう。15分ほど経ち、周囲の記者たちがそう思い始めた頃、2人は意外にも警察の輪から出て歩きはじめた。
心に「忘れられないもの」
「何があったのですか」
私は警察官の目に留まらないよう、公園を出たところで夫婦に話しかけた。
妻は「警察のお世話になっち…