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昼ご飯の準備をする「ケアヴィレッジおてんとさん」の利用者=奈良県明日香村
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 認知症の人もサポートがあれば料理ができます。料理活動を採り入れるグループホームやデイサービスもあり、料理による認知症ケアと予防の効果に着目した研究も進んでいます。

 京都教育大の湯川夏子教授(食物学)は、認知症の非薬物療法の一つとして名付けた「料理療法」を研究している。

 湯川教授によると、認知症や軽度認知障害(MCI)の時期に低下する機能が料理で刺激される。新しいメニューや料理の段取りを考える時には「計画力」、複数の作業を並行して行う時には「注意分割機能」を使う。料理にまつわる経験を思い出して話すことは「エピソード記憶」の活用になる。

 また、料理は五感を使い、完成品が目に見え、味わって満足できる。他の人と一緒に料理し食べることでコミュニケーションも促進できる。

 認知症になっても、生活の中で料理に慣れ親しんできた人は、食材を前にすると包丁の動かし方など料理の仕方を自然と思い出すことが多い。「自分にできることがある、役割があると自信を取り戻すことにつながる」と湯川教授。

 こうした効果から、抑うつ、ひとり歩きといった認知症の人の行動・心理症状(BPSD)の緩和や生活の質(QOL)の向上が期待できるという。

 昨年、近畿圏のデイサービス173施設を調査した近畿大農学部の明神千穂講師(食教育)によると、コロナ禍前には約120施設で料理活動をしていた。感染拡大に伴い、そのうち約3分の2の施設が取りやめたが、約30施設はコロナの5類移行などを機に再開したり、新規に取り組んだりしていたという。

 また、明神講師がグループホームでの料理活動の効果を調べた結果ではQOLの改善が最も多かった。特に笑顔や発話が増え、時には食欲の向上もみられた。他のレクリエーションへの参加意欲が増したり、集中力が向上したりする傾向も観察されたという。

 「料理になじめない人は見ているだけでも構わない」と明神講師。たとえば、ある施設で明神講師が出会った認知症の高齢男性は、日中眠り込む傾向があり、施設が料理活動を始めた当初は座っているだけだった。

 回を重ねるうち、周りの様子…

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