午前6時、古い畳の上に敷いた布団の中で、隣家の音に目を覚ます。
「ジャブジャブ」
ホースから出した水を大きなバケツにため、女性が白菜を手で洗う。葉と葉の間に塩をすり込み、またバケツに詰めていく。一つひとつ、丁寧に、丁寧に。
作るのはキムチだ。
記者の私(29)は昨年、大阪市生野区にある長屋の一部屋を間借りした。住民約13万人のうち韓国・朝鮮籍が約2万人(15%)という生野区。これまで朝鮮半島にルーツをもつ人たちに焦点を当てた取材をしてきて、この地に流れる空気を感じたいと思った。
部屋は4畳と8畳ほどの和室に洗面所とトイレ。玄関の引き戸を開けると畳のにおいが鼻をさす。なんと大正時代の建造物で、築103年だ。
左隣は「キムチ工房」。在日コリアンの高齢女性が、朝から仕込み作業をしている。一帯の住民の間では「あのキムチを食べたらほかは食べられない」と言われるほどの味だ。
済州島と結んだ「君が代丸」と朝鮮市場
長屋のそばには「コリアタウン」が延びる。東西約500メートルに、韓国料理店や化粧品店が並ぶ商店街。年間200万人の観光客が訪れ、土日ともなると、若者たちが狭い一本道で肩をぶつけ合いながら行き交う。
今からおよそ100年前、大…