人が得る情報の多くを占めるといわれる視覚。では「みる」とはどういうことだろうか――。そんな問いを独自の視点で視覚化した写真展「ALT」がキヤノンギャラリーS(東京都港区港南2―16―6 キヤノンSタワー)で開かれている。

写真家の鶴巻育子さん=2024年9月28日、東京都港区、時津剛撮影

 写真家の鶴巻育子さん(52)。見ること、そして撮ることが仕事だが、「見えない、見えづらい世界」をのぞいてみたいと思ったことをきっかけに、視覚障害者と共に作品をつくるプロジェクトが始まったという。

 3セクションに分かれる展示構成は、柿島貴志さん(ギャラリー・POETIC SCAPE代表)がキュレーションを手がけた。セクション1には、弱視から全盲までの視覚障害者たちのポートレートが漆黒の空間に浮かび上がる。カメラの方向を伝え、意識してレンズを見てもらうようにお願いしたという写真群は、被写体と真正面から対峙(たいじ)していることもあり、撮る、撮られる、見る、見られるという関係性がストレートに伝わってくる。「自分はバイアスのない視線を彼らに向けられているだろうか――」。自問しながらの撮影だったが、視覚障害者との交流を深めるうちに、知らず知らずにもっていた彼らに対する偏見や先入観に気づかされたという。

©鶴巻育子
©鶴巻育子

 セクション2には、視覚障害者の見え方についての言葉から想起したイメージカットの世界が広がる。「ミルクの中にいるみたい」、「水滴がついたガラス越し」――。視覚障害者たちに見えている世界を、鶴巻さん独自の解釈で視覚化した。「どう見えているかは検証できない。あくまでも私のイメージだけれど、実際はもっと複雑なはず」と語るが、ひとくくりにされがちな視覚障害にも様々な見え方があることが伝わってくる。

「小さい穴をのぞいている感じ。全体を見回してつなぎ合わせる」という視覚障害者の見え方についての言葉からイメージした作品©鶴巻育子

 セクション3は、鶴巻さんと視覚障害者が一緒に街を歩きながら撮影した作品が並ぶ。鶴巻さんのカラー写真と視覚障害者のモノクロ写真が対比するように配置され、自然と見比べてしまう仕掛けだ。「彼らは声や音、香り、温度などに反応して撮っている」というモノクロ写真は、ボケていたり、極端なクローズアップだったりするが、なぜ撮ったのかを考えさせる不思議な魅力がある。気配や空気感など見えないものを写したい欲望があるという鶴巻さんは、視覚障害者たちが撮った写真を前に「見えるものしか撮れない私には撮れない写真」と話す。

鶴巻さんと視覚障害者が撮影した写真が並ぶセクション3の展示風景©鶴巻育子

 「見えるから見えない」という逆説。「見えているものだけが全てではない」という写真家の言葉は「見る」という行為の奥深さを物語る。11月11日(月)まで(日祝休館)。同名の写真集(デザイン・宮添浩司)も販売している。

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5日(土)午後2時から、「『見えない、見えづらい世界』を見えるカタチに」と題して、キュレーションを手がけた柿島貴志さんとのトークイベントが開かれます(先着申込順で150名)。

申し込みは https://forum1.canon.jp/public/seminar/view/10762(時津剛)

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