写真・図版
2017年、ドイツ・ハンブルクで行われたG20全体会合に臨む中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領(当時)=代表撮影

 米国第一主義を掲げたトランプ氏が、大統領選で復権した。覇権国家アメリカが世界秩序から自らの意思で撤退するという転機の先に、何があるのか。「世界システム論」を提唱した歴史社会学者・ウォーラーステイン(1930~2019)に師事し、長期的な社会変動について研究を続ける立命館大・山下範久教授に聞いた。

     ◇

 《世界システム論は近代以降の世界を中核・準周辺・周辺に分け、この3層の関係の中で資本主義経済が成り立ってきたとする。17世紀のオランダ、19世紀のイギリス、20世紀の米国をそれぞれの時代で秩序や規範を規定する「ヘゲモニー(覇権)国家」と位置づける》

     ◇

 米国のヘゲモニー衰退はすでに1970年代から始まっていた。それまで米国を支えていた自動車産業が日本に追いつかれたのが大きな転機だった。その後はITや金融に経済の重心を切り替え、冷戦終結後は「世界の警察」を新たな看板にして、ヘゲモニーを長く維持することができた。しかし、現在の米国ではそれを保つコストをまかなえるだけの国力がなくなった。

 世界秩序をリードする立場からの撤退を公言するトランプ氏というリーダーが登場し、大国の責任よりも自分たちの暮らしを優先しよう、と述べて選ばれたことは、ヘゲモニー衰退期の現象としてはさほど驚くべきことではない。

 そもそも米国が自由主義的な価値観の盟主として振る舞った期間は、第2次世界大戦後からの数十年間にすぎない。連合国として参戦した第1次世界大戦後も、国際連盟を中心とした世界秩序の維持にはあまりコミットせず、自国の利益を追求して1920年代の繁栄を享受した。白人男性を中心に経済的繁栄を果たしたこの1920年代こそが、トランプ氏の理想とする米国の姿とも言われるのは興味深い。

 今後数十年の間にありうる可能性は、大きく二つ考えられる。

 一つは、オランダやイギリスがそうだったように、衰退したヘゲモニー国家・米国が次なるヘゲモニー国家・中国の「ジュニアパートナー」になっていくことだ。

 中国は習近平体制下で強権的…

共有