能登半島地震から半年以上が過ぎた今も、被災地から直線で150キロ以上も離れた2次避難先の福井県勝山市で共同生活を続ける高齢者らがいる。この先増えることが懸念される「孤独死」を防ぎたい。支援にあたる医療者らの胸中には、被災地で眼前にした光景が残っている。
「きっと殴られますよ」
地震から10日後の1月11日、石川県輪島市で福祉避難所の運営に携わっていた紅谷浩之医師(48)は、訪問先の80代男性宅への道を尋ね、近所の人から警告された。独り暮らしで、訪れた福祉関係者に暴力をふるうことがあったという。かたくなに受診を拒否したまま自宅で体調を崩していると親族から相談を受け、向かう途中だった。
紅谷医師は2011年、福井市内に在宅医療が専門の「医療法人オレンジ」を開設した。今年の能登半島地震では1月3日から現地入りし、自院のスタッフや提携先の医師や看護師ら約20人とともに、介添えの必要な人でも安全に身を寄せられるようにと福祉避難所を立ち上げた。死別やいさかい、家庭の事情などで半ば自暴自棄となって孤独な暮らしを続ける人々の家にも、受診や避難を勧めて歩いた。
訪れた男性宅は、地震で散乱したままの家財道具の中にお酒の空き缶が転がっていた。昼から酒を飲んでいるらしい。長年の不摂生で足腰は細り、衰弱は進んでいた。
「お加減はいかがですか」と…