山藤章二さんが描いた夏目漱石「坊っちゃん」の登場人物7人が壁に展示された一六本舗勝山本店=2024年10月1日、松山市勝山町2丁目、戸田拓撮影

 一六タルトで知られる菓子店「一六本舗」の勝山本店(松山市勝山町2丁目)に、道後温泉などを舞台にした夏目漱石の小説「坊っちゃん」の登場人物7人が並ぶ壁画がある。2024年9月に87歳で亡くなった、似顔絵師で風刺画家の山藤章二さんの絵だ。展示から30年、「昭和の戯れ絵師」が残した明治の群像は、街角でこれからも漱石と松山の絆を伝え続ける。

 レトロな装いの観光列車「坊っちゃん列車」で道後温泉に向かう途中、壁に描かれた、どこか懐かしさを感じる絵に目を留めた人は少なくないだろう。

明治から昭和にかけて松山中心部と道後温泉を結んでいた小型蒸気機関車を再現した「坊っちゃん列車」。原作では「マッチ箱のような汽車」と表現されていた=2024年12月19日、松山市道後湯之町、戸田拓撮影

 土蔵を模した白壁の中央に立つのは、湯上がりなのか、おけを抱えて笑顔の「坊っちゃん」。その周りを脇役「狸(たぬき)」「赤シャツ」「のだいこ」「うらなり」「山嵐」「マドンナ」が囲む。

 それぞれ個性的な7人を、山藤さんは特徴を誇張し描き分けた。夜にはライトアップもされている。

道後温泉に通じる路面電車が走る軌道敷沿いにある、一六本舗の勝山本店=2024年12月19日、松山市勝山町2丁目、戸田拓撮影

制作に当たって山藤さんは個々の登場人物への寸評も書き残していました。記事後半で専門家の評価と合わせてお伝えします。

「インパクト」求めて起用

 1937年生まれの山藤さんは、広告会社勤務を経て画家として独立。政治家や有名人を描いたシニカルな似顔絵、作家のエッセーにさし絵内の書き文字で茶々を入れるなど独自のスタイルで人気を博した。

山藤章二さんの「ブラック・アングル25年 全体重」出版記念の会で、自分の似顔絵を掲げる小泉純一郎首相(右)=2002年、東京・丸の内

 1976年から「週刊朝日」(2023年休刊)の巻末で連載した、一枚画で世相を風刺する「ブラック・アングル」で「週刊朝日を後ろから開かせる男」との異名を取り、読者投稿を募る「山藤章二の似顔絵塾」と共に同誌の看板企画となった。

  • 「居場所だった」風刺画 山藤章二さんが語る人生

 山藤さんの絵がパッケージを飾った和洋菓子の詰め合わせセット「坊っちゃんとおかしな仲間たち」の発売は、道後温泉本館の建築100周年で地元が盛り上がった1994年夏だった。

 「それまで販売していた商品…

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