将棋の名人戦第3局が8、9の両日に東京都大田区の羽田空港第1ターミナルで指され、藤井聡太名人(21)が開幕3連勝で名人初防衛に王手をかけた。優勢の局面でも攻め急がず、落ち着いた指し回しで豊島将之九段(34)を圧倒した。

2日目午後、対局中の藤井聡太名人=2024年5月9日午後2時56分、羽田空港

 八冠を保持する若き王者は今、不調なのだろうか。そんなことを考えていた。

 名人戦はスコア上は2連勝。しかしいずれも接戦で、盤石の強さを誇っていたはずの中盤で逆転を許すなど、薄氷の勝利を重ねていた。相手が強敵であるとはいえ、一度優勢になったら逃さない名人らしさが見えない。

 並行して進行中の叡王戦五番勝負では伊藤匠七段に2連敗し、カド番に追い込まれている。

 迎えた名人戦第3局。ここで豊島が1勝を返せば、ムードは一気に変わるだろう。大きな一局になると思われた。

 その1日目。序盤で豊島に疑問手(△4一玉)が出る。藤井は機を逃さず、棒銀の攻めで優勢に。豊島は守勢に立たされた。

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2日午後、対局中の豊島将之九段(右)。左は藤井聡太名人=2024年5月9日午後3時56分、羽田空港第1ターミナル

 2日目。敵陣を射抜く遠見の角(封じ手の▲1六角)から、藤井は優位を拡大していく。午前中の控室では、棋士から「後手が勝ちに行くビジョンが見えない。先手が間違えにくい将棋に見える」という声が聞こえた。プロの体感的には、大差で名人が優勢の局面だという。

 検討の熱が冷めているようにも見える控室の雰囲気が、ある場面を思い起こさせた。

 4月24日午後、千葉県成田市で指された名人戦第2局の控室では、検討陣の間で名人圧勝のムードが漂っていた。

 だが藤井が攻めを急いだリスクの高い一手を指し、控室に悲鳴に似たどよめきが起きた。

ミスがあった第1局と第2局の反省から、辛抱強く指したという藤井名人。攻め急がない落ち着いた手順が、控室の棋士たちをうならせた。

 その一手を境に局面は混沌(…

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