• 写真・図版

 「知床」で携帯電話のエリア拡大へ向けた基地局の整備事業が進む。関係省庁に事業への疑問や慎重な検討を求める意見書を提出した日本自然保護協会の亀山章理事長(東京農工大学名誉教授)に聞いた。

 知床は国立公園であり、その中でも特別保護地区は風致景観の保護、生物多様性の保護の面から工作物の設置などの許可は容易に認められない場所です。

 2005年に国内3番目の世界自然遺産として登録されましたが、それは「知床の自然を守る」といった地元の人たちの熱心な運動が結実したもので、そのときの気持ちはいまも変わっていないはずです。

 そもそも国立公園、特に特別保護地区はその原生的、原始的な自然と景観を保護する場所であり、「国の宝」として指定されている場所なのです。従って一般の人たちが普通に訪れる観光地とはまったく異なる場所で、当然、利便性や快適性、安全性などが制限されています。それは冬の山と一緒です。

 こうした場所で携帯電話の利用を希望するなら衛星携帯電話があるでしょう。料金は高いですが、全国的に利用でき、基地局を整備する必要もない。私が大学教員の時、学生が北アルプスの山奥に調査に行く際は衛星携帯電話を持たせていました。

 太陽光パネルの建設やケーブルの埋設、灯台へのアンテナ設置、モノレールなど工作物の仮設工事、そのための刈り払いは国立公園にとって重要な改変を伴う行為です。にもかかわらず、環境への影響について調査に基づく議論がなされていないのはおかしいし、拙速です。

 我が国の国立公園と国定公園では携帯電話が使えない場所が大部分であることから、今回のことが認められるなら、今後、全国的に基地局や発電施設(太陽光パネル、風力発電)の設置が求められるようになっていくでしょう。

 「インバウンド」「観光立国」のかけ声の下、国立公園に安易に観光客を誘導していく行為は今後、激増する可能性が十分あります。それは自然保護にとって大きな脅威になることは言うまでもありません。こうした危機感から意見書を提出しました。(聞き手・奈良山雅俊)

共有