《「くたばれ。その言葉、あなたが言われたら、どんな気持ちですか」
プロ野球・阪神タイガースが4月に公式X(旧ツイッター)に投稿した動画で、そう問いかけたのは元阪神、オリックス投手の能見篤史さん(44)だ。
プロスポーツの世界で、ヤジはどこまで許されるものなのか。誹謗(ひぼう)中傷の「境界線」について、能見さんが朝日新聞の取材に対し、自身の思いを語った。》
声援か、中傷か。選手がどう捉えるかによって本当に変わります。
特に関西は特有で、「アホちゃうか」など、誹謗中傷ではないニュアンスで使われる言葉もある。どの言葉からダメだという明確なラインがないのが難しいですね。
自分なりに違いを考えると、「グラウンドに立つな」につながる言葉は、声援や激励ではなく、誹謗中傷になりえると思います。
例えば「早く代われ」「もうやめろ」。
打たれたり怠慢なプレーを見たりすると、ファンの方がそう思うことも当然あると思います。ただ、言われてもこちらは嫌な気持ちにしかならない。
グラウンドに立ち続ける前提で、「しっかりしろ」といった言葉に少し変えるだけで、選手の捉え方は変わると思います。
選手たちはみな、生活をかけて、グラウンドに立つためにいろんな努力をしています。
それを知ってくれとは言いませんが、選手のことを思えば、出てくる言葉は変わると思います。
《ヤジは長年、選手を応援する際の文化でもあった。しかし近年、球団側が観戦マナーに関する声明を出すなど、変化が起きている。》
選手はみな、今まで我慢していた。根性や忍耐力がないと生き残れないと教わり、そういう世界だと納得していました。
ただ、その文化を美化する必要はない。時代の変化と共に変わろうとしている中で、その流れに乗らないといけないと思います。
阪神の青柳晃洋選手が昨年、SNSで受け取った誹謗中傷を公開するなどして、自ら発信をしていました。被害届を出した選手もいました。これはすごくいい流れだと思います。
(自身が長く所属した)阪神タイガースは、ファンにとって生活の一部にもなっていて、ファンの熱量は大きいと思います。
だからこそ、ファンが正しい方向に声を出していったら、より世界に誇れる応援、球団になると思います。(原晟也)
◆のうみ・あつし
1979年生まれ、兵庫県出石町(現豊岡市)出身。鳥取城北高を卒業後、大阪ガスに入社。2004年秋のドラフト自由枠で阪神タイガースに入団。12年に最多奪三振のタイトルを獲得した。21年にオリックスへ移籍、コーチを兼任しながらパ・リーグ2連覇に貢献した。22年に現役を引退し、通算成績は104勝93敗4セーブ。現在は野球評論家として活動する。