すり鉢に入れてすりこぎで練り、60分以上寝かせる――。チューブのからしがある時代、ひと手間が必要な地がらし(からし粉)の文化が福井には残る。精進料理の立役者として知られてきたが、肉や魚との相性も見いだされ、活躍の場を広げている。
福井市内のスーパーで目にする「地がらし」と大書された透明のパッケージ。関東や中京で生まれ育った私には初めて目にする香辛料の名だった。一般的なからし粉とは違い、黄色だけでなく茶色の粒が混ざっている。
初めて口にしたのは、福井に伝わる精進料理「麩(ふ)の辛子あえ」だった。角麩とキュウリを、地がらしを使った酢みそであえた一品。浄土真宗の宗祖親鸞の遺徳をしのぶ「報恩講」などで振る舞われてきたという。3月の北陸新幹線福井延伸に合わせて開発された駅弁のおかずにもなっている。
ただ、おいしくいただくには練り方が大切だ。地がらしを入れたすり鉢に熱湯を注ぎ、すりこぎで練る。製造する「麩市」(福井市)のホームページでは「目や鼻に非常に強い刺激が来るまで」と指南している。その後、鉢ごと逆さにして60分以上寝かせる。せわしない日々の中、立ち止まらせてくれるスローフードのようだ。
麩市があるのは、足羽山の百…