
これから仕事に復帰するという患者が「その前に」と試着に来る。気に入った商品を見つけ、不安げだった表情が笑顔になる。そんな場面に何度も立ち会ってきた。
「お客さまが喜んでくださることが、何よりの力になっています」
手がけているのは、乳がん患者向けブラジャーの企画・開発と販売。京都市の中村真由美さん(63)は、会社「アボワールインターナショナル」の代表取締役だ。
患者としての自身の経験から起業し、患者の就労についても考えるようになった。
自身が両側乳がんの切除手術を受けたのは2011年3月11日。東日本大震災が起きたその日だった。
当時49歳。金融関連企業の管理職として、プロジェクトリーダーを任される立場にあった。
長期の休職をすることはなく、手術も放射線治療も、有給休暇の範囲で受けた。周囲も気にかけてくれ、仕事を続けることができた。
術後のブラジャーにショック、「ないなら自分で」
ただ、職場復帰の際に驚いたことがある。術後に着けるブラジャーの選択肢の少なさだ。
傷を隠すことに主眼が置かれ、色もベージュばかり。同じく乳がんを経験した祖母の時代から何も変わっていないように感じ、ショックを受けた。
「これでは気持ちが上がらな…