ラプソードのデータをタブレット型端末の画面で確認する東濃実業の(右から)長谷部虎太朗投手、金井辰彦監督、野球アナリストの梅村昌宏さん=2024年6月15日午前10時23分、岐阜県可児市の東濃実業川合グラウンド、高原敦撮影
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 米大リーグや日本のプロ野球を追うように、高校野球にも科学的なデータ分析を採り入れた練習が広がっている。

 ズバンッ。 6月中旬の土曜日、投球練習場に小気味よくキャッチャーミットの音が響く。

 東濃実業高校(岐阜県御嵩町)のエース投手、長谷部虎太朗さん(3年)が1球を投じるたび、金井辰彦監督(35)、そして野球アナリストの梅村昌宏さん(29)の3人がタブレット型端末の画面をのぞき込む。

 「おお、いいね」「割と、斜めか」

 投手と捕手の間に設置した測定器が、球の回転数や角度などを捉え、データが端末に表示される。

 梅村さんが投手本人にポイントを解説した。

 「ボールを横に曲げたかったら回転数を増やさないといけない」「(ボールを)落としたいなら今のまま」

 もう一球行きます。そう言って、長谷部さんは、また振りかぶった。

スイングを大リーグ選手と比較できる 納得して練習に取り組むツール

 「ラプソードピッチング」という新型の投球測定機器で、米大リーグのダルビッシュ有選手らも活用することで知られ、梅村さんが持ち込んだ。ラプソードジャパン社(横浜市)によると、全国150校以上の高校が購入し、愛工大名電高校(名古屋市)など私学の強豪も採り入れている。

 端末には球速はもちろん、回転数、回転軸、球を投じる際のリリース角度などが表示される。

 打撃練習ではスイング測定機器「ブラスト」を使う。バットグリップの先に専用の装置を着け、バットを振るスイングスピード、角度、加速度、スイング時間などが分かる。

 目を引いたのはバットスピードの表示だ。「スイングは速い方がいいですが、ボールに当たらなければ意味がない」と梅村さん。東海地方にはこの機器を使ってバットスピードのノルマを課す強豪校もあるという。

 「プロもこの機器でスイングスピードを測っていますし、大リーグの選手とも比較ができます」と梅村さん。

 県立の東濃実業では、梅村さんを2月から定期的に招き、データ分析につなげている。梅村さんは青山高校(津市)野球部元部長。各地の野球部を巡回指導している。

 今春から監督を務める金井監督も高校時代、自分の打率や打った球種、飛んだ方向などをパソコンに取り込み、データを研究することが好きだったという。指導者となった今も、体組織測定や栄養指導といった食育トレーニング、フィジカルトレーニングも含めて科学的なアプローチを重視する。

 「生徒が納得して練習に取り組むためのツール」がラプソードやブラストだという。

 「選手たちの2年3カ月という限られた時間の中で、満足して野球をするには必要なこと」と語る。そして、科学的知見を生徒に還元できるようにと、監督自らも、体の使い方やボールの握り、コンディショニングといった勉強を続けている。

 「ただデータを出すだけでなく、『こういうアプローチをしよう』と伝えられるようにしたい」と金井監督。自らに足りない技術とは何か。どんな力が不足しているか。「データを元にお互いが正しく理解して野球に取り組みたい」

 かつての指導法にとらわれず、新たなやり方を採り入れる高校は増えている。

「強制せず、型にはめない」取り入れたピラティス

 誠信高校(愛知県扶桑町)の野球部では週に1度、筋トレでは鍛えられない内側の筋肉や体幹を鍛える「ピラティス」を採り入れている。

 「きつい……」「ああ!」。ある日、グラウンドでの練習が終わって、ジャージーに着替えて柔道場に集まった部員たちは、あぐらの姿勢から始めた。片足と片手を上げるポーズでは、部員の手足が震える。約40分間のピラティスで自分の体と向き合った。

 教えるのは、沢田英二監督(53)の妻めぐみさん(49)。ピラティスの指導者資格を持つめぐみさんは、もとよりスポーツクラブでトレーナーとして働いており、今は大学野球部でもレッスンを受け持っているという。

 沢田監督は「ピラティスは野球の日本代表も採り入れていた」と選手に伝えている。単調になってしまいがちな「冬練」に刺激を与えようと、エアロビクス、ヨガ、そしてピラティスと試してきた。

 効果について主将の土屋未来斗さん(3年)は「体幹が強くなって、変化球も待てるようになった」。プロ選手もピラティスをやっていると知り、興味を持ったという。

 沢田監督は部を指導して32年目。「昔なら、猛練習で何くそでやっていた」。だが今は違う。

 「強制せず、型にはめない」

 選手が自らやる気を出して、目標に進んでいく指導方法を模索する。(高原敦、渡辺杏果)

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